松漠紀聞

『松漠紀聞』（しょうばくきぶん）は、中国南宋時代の洪皓によって著された、金朝に関する見聞録です。1156年に刊行されました。

洪皓は1129年、捕虜となっていた宋の欽宗皇帝らの返還交渉のため金国へ派遣されました。しかし、金の傀儡国家である劉斉への仕官を強要され、これを拒否したため、現在の中国東北部、具体的には通遼市から赤峰市一帯に及ぶ地域に15年間もの間抑留されることとなりました。

この抑留期間中に、洪皓は現地の様々な風俗や習慣、社会情勢などを詳細に観察し、記録しました。その成果が『松漠紀聞』としてまとめられています。

本書の内容で特筆すべき点の一つは、女真族完顔部の先祖であり、金朝の始祖とされる函普について、「新羅人」であると記録していることです。この記述を根拠として、韓国・北朝鮮の一部では、女真族のルーツは朝鮮民族であるという主張がなされることがあります。

しかしながら、この主張に対しては、史料の解釈に問題があるという批判が、中国や日本をはじめとする様々な国から寄せられています。史料の文脈や他の史料との整合性などを考慮すると、単純に「新羅人＝朝鮮民族」と断定することは難しいという見解が一般的です。

『松漠紀聞』は、金朝という異民族王朝の実情を知る上で貴重な一次資料であることは間違いありません。しかし、その内容を解釈する際には、様々な視点からの検討が必要であると言えるでしょう。

関連事項

* 稲垣足穂 - 小説『黄漠奇聞』を著しました。この作品は、『松漠紀聞』から着想を得たとされています。

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