松竹キネマ俳優学校

松竹キネマ俳優学校は、大正9年（1920年）4月1日に開校し、同年10月に閉鎖された、わずか半年の間存在した俳優養成学校です。松竹キネマ合名社が俳優の育成を目的に設立し、歌舞伎座裏の芝居茶屋「梅林」の二階を校舎としました。

当初、校長には松居松葉が予定されていましたが、病気により降板。代わりに、演劇界の重鎮であった小山内薫が就任しました。主事は人見直善が務め、講師陣には、小山内薫（擬態実習）、アンナ・スラヴィア（西洋舞踊）、久米正雄（脚本講義）、松本幸四郎、市川左升（扮装術）、市川升六（擬闘術）、斎藤佳三（美術史及び音楽階梯）、玉井昇（写真術）、東健而（映画劇史）、松居松葉（表情心理学）といった、各界の著名人が名を連ねました。応募者240名の中から選ばれた男子30名、女子6名の計36名が、この俳優学校で学びました。

小山内薫は、生徒たちを集めて映画製作の実習を行い、第1回作品として島津保次郎のシナリオ『荒野』を製作することにしました。監督には田口桜村が起用され、台本をローマ字でタイプし、演出の全権を監督に与えるなど、当時としては斬新なアメリカ式の手法を導入しました。しかし、『荒野』は製作中止となってしまいます。

同年6月25日には、松竹キネマ蒲田撮影所がオープンし、俳優学校も撮影所内に移転しました。小山内は本社理事兼撮影総監督として、俳優学校の生徒たちと共に、第1作『奉仕の薔薇』を製作しました。村田実が監督を務め、花柳はるみが主演したこの作品は、当時の観客には受け入れられず、封切りは1年後まで延期されることになりました。続いて『光に立つ女』を製作しますが、映画界の革新を目指す小山内らのグループと、商業主義的な映画製作を行う撮影所との対立が深まり、俳優学校は開校からわずか半年後の10月に閉鎖されることとなりました。

閉鎖後、小山内薫は同志たちと共に松竹を離れ、大谷竹次郎社長の協力を得て、本郷座本家茶屋の二階に松竹キネマ研究所を設立し、新たな映画製作の拠点としました。

松竹キネマ俳優学校は短命に終わりましたが、その卒業生の中には、後に映画界を代表する存在となった人物が数多くいます。伊藤大輔、東郷是也（鈴木傳明）、奈良真養、岡田宗太郎、南光明、東栄子、澤村春子、伊達龍子などが、この学校で学びました。

松竹キネマ俳優学校は、日本の映画史において、革新的な試みが行われた場所として記憶されています。小山内薫の指導のもと、新しい映画製作のスタイルが模索され、多くの才能が育まれました。その短い活動期間にも関わらず、日本の映画界に大きな影響を与えたことは間違いありません。

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