松風

(まつかぜ)



「松」(まつかぜ)とは、本来、松の木立を吹き抜けるの音やそのそのものを指します。古来より、この言葉は日本の古典文芸において特別な意味合いを持ち、特に荒涼とした浦辺(海岸)の寂しい情景や、遠く離れた人を「待つ」気持ちを表す掛詞として、和歌や物語の中で詠み込まれてきました。

この「松」または同音の「まつかぜ」という名称は、自然現象としてのの描写を超え、様々な分野の固有名詞として用いられています。

日本の古典文学に関連する事項



源氏物語
紫式部によって書かれた日本の古典文学の最高峰、『源氏物語』全五十四帖のうち、第十八帖の巻名が「松」です。光源氏が須磨での蟄居を終え、明石に移った後の出来事が描かれ、明石の入道やその娘(後の明石の君)との関係が展開する中で、姫君への思いや将来への不安が、松の音と共鳴するように描かれる場面があります。


の演目の一つに「松」があります。観阿弥が創作し、子の世阿弥が改作した作品で、汐汲みを生業としていた海女、松と村雨の姉妹の霊が登場し、在原行平との恋を巡る切ない物語が展開されます。待ち続けた思いや世の無常が描かれ、「待つ」という言葉が重要なテーマとなっています。

浄瑠璃歌舞伎
の「松」を題材とした浄瑠璃歌舞伎の作品も存在し、これらの通称として「松」と呼ばれます。

日本の企業名



「松」という社名の企業が複数存在しますが、読みが異なる場合があります。

株式会社松(しょうふう)
京都府京都市東山区に本社を置く企業で、歯科材料や医療機器の製造・販売を主に行っています。

株式会社松(まつかぜ)
大阪府大阪市西区に本社を構える企業で、プロフェッショナル向けのまつ毛エクステンション関連商材を専門に扱っています。

日本の艦艇名



大日本帝国海軍
かつての大日本帝国海軍において、駆逐艦の名称として「松」が用いられました。
初代神駆逐艦の七番艦として建造された艦。
二代神駆逐艦の四番艦として建造された艦。

海上保安庁
海上保安庁が運用するちよかぜ型巡視艇の一つに「まつかぜ」(船番CL142)があります。1975年墨田川造船で竣工し、排水量24トン、速力18ノットの性を持っています。

千葉市消防局
千葉市消防局が所有する消防艇の二代目名称が「まつかぜ」です。

厚生労働省
厚生労働省の大島青松園(国立ハンセン病療養所)で使用される官用船の名称が「まつかぜ」です。

日本の列車愛称



特急「まつかぜ」
かつて日本国有鉄道(国鉄)が主要幹線で運行していた特別急行列車の一つです。

特急「スーパーまつかぜ」
JR西日本が現在も運行している特別急行列車で、山陰本線などで活躍しています。

日本の地名



特定の地名にも「松」や「まつかぜ」の名称が見られます。

その他



和菓子
和菓子の種類に「味噌松」があります。味噌や小麦粉などを練って作られ、表面の焼きムラが松の樹皮に似ていることからこの名がついたとされます。また、この菓子の姿に似せて作られる料理に「松焼き」がありますが、こちらは鶏ひき肉などの材料が大きく異なります。熊本県菊池市には、砂糖と小麦粉を主原料に驚くほど薄く焼き上げられた「日本一うすい和菓子」を銘打つ「松」があり、正観寺丸宝が製造販売しています。沖縄にもピンク色が特徴的な菓子があり、儀式や祝事用の菓子の一つとして、「まちかじ」または「まつかじ」と呼ばれます。

茶の湯
茶道において、茶の湯が煮えたぎる時に立てる音が、あたかも松林に吹くの音のように聞こえることから、この音を「松」と呼び、珍重されます。

馬の名前
戦国時代の武将、前田利益(前田慶次)が乗っていたとされる名馬の通称が「松」です。
不世出の競走馬シンザンの幼名も「松」でした。

日本人の
「松」(まつかぜ)は、日本人の(苗字)としても見られます。松風雅也氏などがこのです。

ワープロソフトウェア
管理工学研究所が開発した、Windows版の軽量ワープロソフトウェアの製品名が「松」でした。

ライブイベント
お笑いタレントの松本人志氏が1995年に開催した、料金後払い制のライブイベントの名称が『松'95』でした。

文芸作品の題名
複数の文芸作品の題名として「松」が使用されています。
俳人・小説家の石塚友二氏による作品で、1942年発表。芥川賞候補となり、池谷信三郎賞を受賞しました。
小説家の尾崎一雄氏による作品で、1971年発表。

建築物
アメリカ合衆国ペンシルベニア州フィラデルフィア市にある日本建築と庭園の名称が「松荘」です。

公園
「松公園」という名称の公園も各地に存在し、同名異義語として扱われることがあります。

フィクションに関連する事項



架空の作品に登場する人名としても「松」が用いられることがあります。例えば、テレビアニメや漫画『吸血姫美夕』に登場する人物の一人です。

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