松風・村雨

松風・村雨の伝説

松風・村雨は平安時代に須磨に住んでいたとされる姉妹の名前であり、彼女たちの物語は深い感情と文化的影響を持っています。この姉妹伝説は、地域の歴史や日本の古典文学、演劇においておおいに語られてきました。

来歴

須磨地域に伝わる伝説によると、松風と村雨の姉妹は実際には「もしほ」と「こふじ」と名付けられた多井畑村の村長の娘たちです。彼女たちは須磨で汐汲みをしている際、偶然に在原行平という人物と出会います。行平は当時、天皇の怒りに触れ、流罪となって須磨に流されていました。彼女たちとの出会いによって、行平は松風と村雨という名前で呼ばれ、姉妹との親しい関係が始まります。

後に、行平が赦されて都に帰る際、彼は松の木に自らの烏帽子と狩衣を掛けて残すことで、松風・村雨への別れを告げました。この別れに際して詠まれた和歌も有名です。「立ち別れ　いなばの山の　峰に生ふる　まつとし聞かば　いま帰り来む」という歌は、古今和歌集に記されており、行平が姉妹を想って詠んだものであると伝えられています。姉妹はその後、尼となり行平の旧居に庵を構え、彼を偲ぶ生活を送りました。

謡曲『松風』と、多様な伝承

須磨に流された行平が海女と歌を交わす短い説話は、13世紀中頃に成立された『撰集抄』に収められていますが、ここではその海女の名前は明記されていません。この物語において、行平の心が通じ合う相手として松風・村雨の姉妹が描かれ、それに基づいた謡曲『松風』が室町時代に成立しました。この謡曲は、古典文学や伝説の要素を取り入れながら、姉妹の物語を特別なものへと昇華させました。

松風・村雨の悲恋の物語は、それ以降多くの作品に影響を与え、浄瑠璃や歌舞伎、さらには近代映画にまで広がっていきます。須磨には、彼女たちにちなんで名付けられた地名や遺跡がいくつか存在します。具体的には、衣掛松や松風村雨堂などがあり、地区内には村雨町、松風町、行平町、衣掛町という名称の地名が見られます。

派生作品

松風・村雨に関連した作品は数多く、代表的なものとしては、

• - 謡曲『松風』（観阿弥・世阿弥作、室町時代）
• - 御伽草子『松風村雨』（室町時代）
• - 浄瑠璃『松風村雨束帯鑑』（近松門左衛門作、1690年代）
• - 浄瑠璃『行平磯馴松』（1738年）
• - 映画『松風村雨』（1914年、日活製作）
• - 映画『松風村雨』（1925年、帝国キネマ演芸製作、松本英一監督）
• - 映画『松蔭村雨 江戸篇』（1932年、大衆文芸映画社製作）

これらの作品は松風・村雨のストーリーを異なる形式で表現し、伝説の魅力を今もなお引き継いでいます。松風・村雨の姉妹の物語は、時代を超えて人々の心に残り、文化的な遺産として受け継がれています。

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