松風村雨堂

松風村雨堂：在原行平と二人の女性の悲しい物語

兵庫県神戸市須磨区にある松風村雨堂は、平安時代の歌人であり公卿であった在原行平にまつわる、切ない物語を伝える史跡です。

在原行平と須磨

仁和3年（887年）、光孝天皇の怒りを買った在原行平は、京から須磨へ左遷され、蟄居生活を送ることとなりました。この地で、多井畑の村長の娘である「もしほ」と「こふじ」という姉妹と出会います。行平は彼女たちを「松風」と「村雨」と名付け、愛人として深い関係を築きました。しかし、行平の帰京が決まると、別れの時が訪れます。名残惜しみつつ、行平は自身の狩衣と烏帽子を松の木に掛け、姉妹への形見として残し、都へと旅立ちました。

松風と村雨の献身

行平が都へ去った後も、松風と村雨は彼への深い想いを抱き続けました。行平の居宅の近くに庵を結び、観世音菩薩を祀り、行平の無事と帰りを祈り続けたと伝えられています。現在残る松風村雨堂は、この庵の跡であるとされています。

伝説と謡曲

都へ帰る行平と二人の姉妹の悲しい物語は、後世に謡曲『松風』として伝えられ、広く知られるようになりました。この謡曲は、松風と村雨の深い愛情と、行平との別れを惜しむ女心を情感豊かに表現しています。また、この伝説は、様々な創作にも影響を与え、多くの物語や作品に受け継がれています。

史跡としての松風村雨堂

現在、松風村雨堂の敷地内には、観音堂、供養塔、そして行平が別れ際に植えたとされる磯馴松や衣掛松などの史跡が残されています。また、行平の和歌が刻まれた石碑も建立されており、当時の情景を偲ばせる貴重な場所となっています。さらに、多井畑には「松風村雨の墓」とされる五輪塔二基も存在し、この物語の深遠さを物語っています。

行平の和歌

松風村雨堂入口にある石碑には、在原行平の歌が刻まれています。

「立ちわかれ　いなばの山　峰におふる　まつとし聞かば　今帰りこむ」

この歌は、行平が松風と村雨に別れを告げる際に詠んだとされています。因幡の山の松のように、二人が自分の帰りを待っていてくれるならば、すぐにでも戻って来ようという、切ない想いが込められています。

謡曲「松風」の概要

謡曲『松風』は、在原行平と松風、村雨の物語を題材とした作品です。秋の夜、須磨の浦を訪れた旅僧が、松風と村雨の霊に出会い、彼女たちの悲しい運命と、行平への変わらぬ想いを目の当たりにするという物語です。霊たちは行平の形見の烏帽子や狩衣を手に取り、涙ながらに昔を懐かしみ、僧に回向を願って消え去ります。この謡曲は、幽玄な雰囲気と、深い愛情と悲しみを表現した名作として知られています。

交通アクセス

松風村雨堂へは、山陽電気鉄道須磨寺駅より徒歩約7分、またはJR山陽本線須磨駅から神戸市バス71、72、75系統「村雨堂」バス停下車すぐです。

まとめ

松風村雨堂は、平安時代のロマンと悲恋物語を今に伝える、歴史的にも文化的にも貴重な場所です。訪れる際には、在原行平と松風、村雨の悲しい物語に思いを馳せてみてください。

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