柱絵

柱絵：江戸時代の縦長浮世絵の世界

柱絵は、江戸時代に流行した独特の浮世絵様式です。その名の通り、柱や壁に飾ることを目的として制作されたもので、極端に細長い画面が最大の特徴です。版画と肉筆画の両方が存在し、「柱隠し」や「柱掛け」とも呼ばれていました。

柱絵は、柱や壁に直接貼り付けたり、簡単な軸装にして飾ったりしていました。時代が下るにつれて、軸装にする方が一般的になったようです。衝立や屏風、襖、障子などに貼られていた例もあり、現在でも当時の痕跡が残る作品が存在します。しかし、多くの柱絵は保存状態が悪く、著名な画家の作品でも現存数は少ないのが現状です。

この縦長の画面は、一見制約に思えますが、絵師たちは巧みな構図でそれを克服し、かえって魅力的な作品を生み出しました。その特異な画面比率は、海外の人々にも強い印象を与えたと伝えられています。

画題は多岐に渡り、美人画が最も多く見られます。縦長の画面を活かした、立姿の女性像が多く描かれています。中には、湯上がりの姿や、風で裾がめくれ上がった大胆な描写の「あぶな絵」的な作品も存在します。役者絵、山水風景、故事説話、縁起物なども題材とされ、多様な表現が試みられました。

例えば、川又常正の肉筆画『十六人図』は、縦長の画面に十六人の人物の頭部をびっしりと配置した、ユーモラスで奇妙な魅力を持つ作品です。これは、縦長という制約を逆手に取った、優れた例と言えるでしょう。

柱絵の歴史と主要な絵師

柱絵は、奥村政信が発案したとされており、錦絵として制作されたのは元文年間（1736～1741年）頃と推定されています。肉筆画においても、ほぼ同時期から制作が始まったと考えられています。

柱絵のサイズは、時代によって微妙な変化が見られます。政信時代の柱絵は、縦69～75cm×横17cm前後、または縦69～75cm×横25～26cm程度でした。横幅の違いは、用いた奉書のサイズの違いによるもので、どちらも「幅広柱絵」と呼ばれ、特に横幅が広い方を「掛物絵」と呼ぶ場合もありました。

奥村政信の時代を第一次ブームとすると、第二次ブームは鈴木春信や礒田湖龍斎らが活躍した宝暦から明和年間頃です。この頃には、サイズが縦69～70cm×横12～13cmと小さくなり、より縦長な画面へと変化しました。春信の柱絵作品は総作品数の約17％を占め、彼の代表作の一つとして認識されていたことが、追善作品などに柱絵が画中画として描かれていることから分かります。

第三次のブームは鳥居清長の活躍期にあたりますが、清長以降は、大判錦絵の続物の制作が盛んになり、柱絵は次第に衰退していきました。明和頃には肉筆画は衰退し、版画も文化頃にはほぼ姿を消しました。柱絵の衰退の背景には、大判続絵の普及や、人物描法の変化などが考えられます。

柱絵制作の中心となった絵師には、奥村政信、西村重長、古山師政、鈴木春信、礒田湖龍斎、鳥居清長、勝川春潮、喜多川歌麿、鳥文斎栄之などがいます。彼らが、それぞれの技法と感性で、独特の縦長画面に魅力的な世界を描き出しました。

現在では、その希少性から、柱絵は貴重な浮世絵様式として高く評価されています。当時の文化や美意識を知る上で、重要な資料となっています。

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