柳家小さん (4代目)

四代目 柳家 小さん（やなぎや こさん）

明治21年（1888年）4月18日、東京の麹町で誕生。本名は大野菊松といいます。幼い頃に病を患い、合格していた中学への進学を断念。その後、洗濯屋などで奉公生活を送りました。

明治39年（1906年）、二代目柳家つばめの紹介を受けて、その師匠である三代目柳家小さんの門を叩き、落語の世界に入ります。入門当初は、本名の一字を取った「柳家小菊」という前座名で高座に上がりました。

明治41年（1908年）12月には二ツ目に昇進し、「三代目柳家小きん」と名を改めます。若手落語家たちが腕を磨く「胆力養成会」といった勉強会にも積極的に出演し、その実力を認められて将来を嘱望される存在となりました。大正2年（1913年）4月には、小さん一門における出世名であり、師匠である三代目小さんの前名でもあった「五代目柳家小三治」を襲名します。

大正5年（1916年）2月には真打に昇進。その後、大正7年（1918年）3月には「四代目蝶花楼馬楽」を襲名するなど、名跡を重ねました。そして昭和3年（1928年）4月、師匠の三代目柳家小さんが引退したのに伴い、「四代目柳家小さん」を襲名。自身が名乗っていた四代目蝶花楼馬楽の名跡は、弟子である三代目三遊亭圓楽が五代目として継承しました。

当時の所属団体は落語協会でしたが、昭和9年（1934年）にこれを脱退し、東宝の専属となり、東宝名人会を主な活躍の場としました。終戦後には落語協会に復帰し、会長にも就任するなど、落語界の立て直しにも尽力します。

小さんの芸風は、受けを狙わず淡々とした語り口が特徴でした。しかし、その中に時折挟まれる鋭い警句が噺に奥行きを与え、格調高い独自の境地を築いていました。多くの滑稽噺を得意とし、『かぼちゃ屋』『二十四孝』『ろくろ首』『三軒長屋』『青菜』『おばけ長屋』『雑俳』『三人旅』『芋俵』などをよく演じました。一方で、新作落語の創作にも強い意欲を持ち、「創作力のない者は、噺家ではない」という言葉を残すほど、新しい噺を生み出すことの重要性を説きました。

人物としては、無口で温厚な人柄として知られていましたが、落語のあり方については一家言を持ち、「曲がりたる心あるものは落語を止めるべし」と、芸に対する厳格な信念を持っていました。また、人のあだ名をつけるのが非常に巧みで、その卓抜なセンスは弟子の五代目柳家小さんの前座名「栗之助」などからも窺えます。他にも、西村楽天を「西洋の羅漢様」、柳家小半治を「面子の頼朝」、八代目春風亭柳枝を「ホワイト小僧」、五代目古今亭志ん生を「蟒蛇（うわばみ）の吐き出され」と評するなど、数々のユニークなあだ名を生み出しました。俳句も嗜み、「皐月庵祥喜」という俳名を持っていました。画家の八代大島誠は小さんの孫にあたります。

昭和22年（1947年）9月30日、59歳でこの世を去りました。三代目三遊亭圓歌の証言によれば、上野の鈴本演芸場で新作落語「鬼娘」を口演した後、楽屋に戻り、前座が出した茶を飲み終えて湯呑みを置いた直後に前に倒れ、そのまま帰らぬ人となったといいます。終戦を経て落語協会に復帰し、会長として新たな時代を牽引し、自身の話芸も円熟期を迎えようかという矢先の出来事でした。墓所は東京都台東区の本寿寺にあります。

小さんの門下からは、二代目柳家小満んをはじめ、後に一門を移籍してくる形で八代目金原亭馬生、林家彦六などが育ちました。その他、四代目鈴々舎馬風、三代目柳家小團治、二十四代目昔々亭桃太郎、柳家卯之吉などが弟子として名を連ねています。一方、六代目蝶花楼馬楽は林家彦六門下へ、五代目柳家小さんは八代目桂文楽門下へ、柳家小とよは二代目桂小文治門下へ移籍しました。八代目柳家小三治は廃業しています。

偉大な師匠、三代目小さんの名を継ぎ、独自の芸風と信念をもって落語界に足跡を残した四代目柳家小さんは、その急逝が惜しまれる伝説的な落語家として今に語り継がれています。

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