柿本神社 (明石市)

柿本神社：歌聖を祀る明石の霊峰

兵庫県明石市人丸町に鎮座する柿本神社は、歌聖として名高い柿本人麻呂朝臣を祀る神社です。人丸山（人丸山公園）の山頂に位置し、この山の名も神社に由来しています。かつては「人丸神社」と呼ばれ、地元では親しみを込めて「人丸さん」と呼ばれてきました。県社に列せられた由緒ある神社で、古くから人々の信仰を集めてきました。

柿本人麻呂と多様な信仰

祭神である柿本人麻呂は、柿本大明神とも称され、その優れた歌才から歌道の神として広く信仰されています。そこから派生して、学問や文芸の神としても崇められています。さらに、名前の「人丸（ひとまる）」を「人生まる（ひとうまる）」と解釈し、安産の神としても信仰されており、江戸時代からは「火止まる（ひとまる）」と解釈され、火災除けの神としても崇敬されています。また、「明石」と「開かし」の掛詞から、眼病平癒の霊験があると伝えられています。
嘉暦2年（1327年）の『人丸縁起』には、本地仏として十一面観音が記されており、その像は隣接する月照寺に祀られています。

創祀と歴史的変遷

社伝によれば、仁和3年（887年）、明石の岡（現在の県立明石公園）にあった楊柳寺（後の月照寺）の覚証という住僧が、夢の中で柿本人麻呂の神霊がこの地に留まっていることを感得し、神社の創祀に至ったとされています。しかし、創祀の経緯には諸説あり、人麻呂の非業の死を弔うため、あるいは『古今和歌集』に収められた「ほのぼのと明石の浦の朝霧に 島隠れゆく舟をしぞ思ふ」という歌（作者は人麻呂と伝えられている）を縁起として、神社が創建された可能性も示唆されています。

文明8年（1476年）の勧進状には、明石浦に人麻呂の墓所があると記されており、既に広く知られた存在であったことが分かります。天正9年（1581年）、豊臣秀吉は人麻呂を「播州明石の和歌第一の神仙」と称え、土地を寄進しました。江戸時代に入ると、明石城築城に伴い、現在の地に移転、新たな社領が寄進されました。移転後、この地は人丸山と呼ばれるようになり、旧地には人丸社が残されました。

享保8年（1723年）、柿本人麻呂の没後1000年を記念して、正一位の神階と「柿本大明神」の神号が宣下され、盛大な祭りが行われました。以降、皇室や明石藩主からも崇敬を受け、明治以降も村社、郷社、そして県社へと昇格していきました。

祭祀と年間行事

近世までは3月18日（命日）が例祭日でしたが、現在は4月第2日曜日となっています。例祭日には神輿が市内を巡行する盛大な祭りが行われます。10月18日には秋季除火大祭、春秋には和歌献詠祭も行われています。3月18日が命日とされるのは、観音菩薩の縁日と重なること、そして本地仏が十一面観音であることと関連していると考えられています。

社殿と境内

本殿は一間社流造銅板葺、拝殿は桁行5間梁間3間の入母屋造瓦葺で、壮麗な造りとなっています。境内には天神社、三宝荒神社、五社稲荷社などの末社も祀られています。
境内には、後桜町天皇や仁孝天皇の宸翰など、貴重な文化財が数多く残されています。また、神木とされる筆柿、盲杖桜、八房梅など、歴史と信仰が息づく樹木も存在します。人丸山西麓には、延命長寿の水として信仰される亀の水（亀齢水）が湧き出ています。境内からは明石海峡を望むことができ、美しい景観が広がっていますが、日本標準時子午線が通る関係で、明石市立天文科学館の高塔が視界を一部遮っています。

交通アクセス

山陽電鉄人丸前駅から徒歩5分とアクセスも良好です。歌聖を祀る由緒ある神社を訪れ、歴史と文化に触れてみてはいかがでしょうか。

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