根岸吉之助

根岸吉之助 - 浅草の興行師の足跡

根岸吉之助（ねぎし きちのすけ、1892年 - 1977年11月17日）は、浅草の興行界で名を馳せた重要な人物であり、特に根岸興行部の3代目経営者として知られています。吉之助は、浅草六区の全盛期を築き上げただけでなく、昭和初期の「浅草オペラ」の発展に寄与した一方、戦前・戦後を通じて安来節興行を守った木馬館の館主としても名を知られています。

来歴

吉之助は明治25年、根岸興行部の創立者である根岸浜吉の女婿で、小泉丑治の子としてこの世に生を受けました。浜吉が設立した「常磐座」は、彼の誕生の5年前にあたります。父である小泉のもと、1912年に浜吉が亡くなると、彼は根岸興行部の経営を受け継ぎます。

この時期、根岸興行部は様々な娯楽施設を拡張し、1911年には「金龍館」をオープンさせ、1913年には洋画封切館「東京倶楽部」を開業しました。1918年、吉之助は新たに「木馬館」を開設しました。この館は、地元の子供たちに娯楽を提供する場として、回転木馬や昆虫館が設けられました。

浅草オペラの興隆

1920年、吉之助は「新星歌舞劇団」を根岸大歌劇団として専属にし、同劇団は浅草オペラの中心的存在となります。この劇団からは、エノケン（榎本健一）や二村定一といった多くの著名なアーティストが輩出されました。しかし、1923年の関東大震災により、浅草は多大な被害を受け、吉之助は劇団を地方に持ち出すも成功せず、翌年には解散に至ります。

戦間期の変革

1931年、吉之助は木馬館での昆虫館を廃止し、安来節がふたたび流行の兆しを見せると、木馬館はその専用の興行館として台頭します。また、その頃、隣接する浅草公園水族館の2階では「カジノ・フォーリー」が絶大な人気を誇っていました。これらの変化は、吉之助が木馬館をもって興行界に大きな影響を与え続ける基盤となりました。

戦後の再生と最期

戦後も吉之助は木馬館の安来節を守り続け、1956年には木馬館が鉄筋コンクリートの2階建てに改装されました。1970年には木馬館の1階が映画館から浪曲定席「木馬亭」にリニューアル。1977年には安来節さよなら公演が行われ、その後半年で吉之助は85歳で他界しました。彼の死去は多くの人々に惜しまれ、週刊誌『週刊新潮』にも彼の功績が悼まれました。

吉之助の遺した木馬館と木馬亭は、今なお営業を続けており、彼の子孫である映画監督の根岸吉太郎もこの名のもとに存在しています。彼の影響を受けた興行文化は、現在も浅草に息づいています。

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