梨本徳彦

梨本徳彦：波乱に満ちた生涯の軌跡

梨本徳彦(1922-2007)は、日本の歴史において特異な存在感を放つ人物でした。皇族として生まれ、海軍軍人としての経験、華族としての生活、そして民間人となった後の波乱万丈の人生は、激動の時代を生き抜いた証と言えるでしょう。

皇族時代から臣籍降下へ

1922年、久邇宮家の多嘉王と静子妃の三男として誕生した徳彦は、京都府立京都第一中学校を経て、1942年に海軍兵学校を卒業。同年、貴族院皇族議員となりました。1943年には勲一等旭日桐花大綬章を受章し、成年式を迎えました。しかし、同年6月、自ら申し出て臣籍降下し、龍田伯爵家を創設。龍田という家名は、近江国久邇宮家旧領にある龍田神社に由来すると言われています。皇族の臣籍降下による華族家創設は、彼をもって最後となりました。

戦中・戦後の歩み

海軍大尉として終戦を迎えた徳彦は、戦後は松下電器産業や東京丸物（現在のパルコ）などに勤務しました。ニュース映画で「働く貴族」として紹介されたこともあった一方、旧皇族の肩書きを利用されることに不快感を抱いていたとも伝えられています。

梨本家の家督相続と晩年のトラブル

1966年、梨本宮守正王妃梨本伊都子の養子となり、梨本家の祭祀を継承。このことは香淳皇后も喜んだとされています。しかし、私生活では、妻である正子女王と離婚。晩年には、自身のお印である鳳凰を冠した「鳳凰会」の総裁を務める一方、金銭管理をめぐるトラブルに度々巻き込まれました。

具体的には、日本文化振興会名誉総裁として、ある人物を表彰する名目で多額の礼金を集めていた疑惑や、NPO法人「やまびこ会」の名誉総裁として、元本保証と高配当を謳った投資詐欺に関与した疑惑など、数々の問題が浮上しました。これらの事件は、徳彦自身が無頓着であったこと、名義を貸したことにより発生したと推測されます。伊勢神宮の灯籠改築を名目とした寄付金詐欺にも関与したとの指摘もあります。2002年には神林隆夫を養子に迎えていますが、世間知らずな面もあったようです。

複雑な遺産と旧宮家問題

2007年に84歳で死去した徳彦。梨本家は養子相続によって継続されていますが、彼の複雑な人生は、旧宮家制度やその後の歴史と深く関わっています。晩年のトラブルは、旧皇族という特殊な立場と、社会との接し方の難しさ、そして時代変化への対応の遅れなどを反映していると言えるかもしれません。彼の生涯は、激動の時代を生き抜いた一人の男の物語であり、同時に、特権階級と社会との関係、そして日本の近代史の一断面を映し出す鏡と言えるでしょう。

参考文献

「特集 『小室圭くん』とさよならしたい 『紀子さま』の宮内庁『プリンス候補人名録』」『週刊新潮』第63巻第42号、新潮社、2018年11月8日
「特集 いよいよ始まる『皇位継承』議論 急浮上する『旧皇族』! 『女性天皇』vs.『東久邇宮』という暗闘」『週刊新潮』第64巻第37号、新潮社、2019年10月3日

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