森の情景

シューマン『森の情景』作品82について

ロベルト・シューマンが作曲したピアノ独奏曲集『森の情景』作品82は、全9曲からなる作品です。作曲は1848年12月24日から1849年1月6日にかけて行われ、1850年12月に出版されました。ロマン主義音楽において、森林は重要なテーマの一つであり、特にドイツにおいては「ドイツの森」として特別な意味を持っていました。シューマンのピアノ曲の中で、森を題材にした作品は、この『森の情景』のみです。音楽学者である西原稔は、この作品の作曲にあたり、ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフからの影響があったと指摘しています。

曲の構成と特徴

『森の情景』は、各曲が変種調（変記号の付いた調性）を主調としている点が特徴的です。作曲当初は、各曲に短い詩が添えられていましたが、出版の際に第4曲を除いて削除されました。当初予定されていた詩は、第1曲と第9曲がグスタフ・プファリウスの『森の歌』、第2曲と第8曲がハインリヒ・ラウベの『狩の文集』から、そして第7曲はアイヒェンドルフの詩集から「薄明」という詩が引用されていました。この「薄明」は、シューマンの歌曲集「リーダークライス」作品39の第10曲にも用いられています。

以下に、各曲の詳細を説明します。

1. 森の入口（Eintritt）
変ロ長調、4/4拍子。
「急速でなく(Nicht zu schnell)」という指示があり、三部形式で構成されています。静かでゆったりとした雰囲気で、森への第一歩を踏み入れる心情が描かれています。

2. 待ち伏せる狩人（Jäger auf der lauer）
ニ短調、4/4拍子。
「最高に生き生きと(Höchst lebhaft)」という指示があり、序奏と二部形式で構成されています。狩人が待ち伏せする様子を活き活きと表現しています。

3. 寂しい花（Einsame Blumen）
変ロ長調、2/4拍子。
「単純に(Einfach)」という指示があり、優雅な雰囲気を持っています。タイトルの「Blumen」が複数形であることから、対話のような要素が取り入れられています。冒頭の動機は他の曲にも現れ、曲集全体を繋ぐ役割を果たしています。

4. 気味の悪い場所（Verrufene Stelle）
ニ短調、4/4拍子。
「かなりゆっくりと(Ziemlich langsam)」という指示があり、冒頭にはドイツの詩人フリードリヒ・ヘッベルの詩が掲げられています。シューマン晩年の作風である怪異さや暗さが表現されています。

5. なつかしい風景（Freundliche Landschaft）
変ロ長調、2/4拍子。
「急速に(Schnell)」という指示があり、三部形式で構成されています。

6. 宿屋（Herberge）
変ホ長調、4/4拍子。
「モデラート(Mässig)」という指示があり、三部形式で構成されています。

7. 予言の鳥（Vogel als Prophet）
ト短調、4/4拍子。
「ゆるやかに、きわめて柔かに(Langsam, sehr zart)」という指示があります。全曲の中で最も有名な曲であり、その神秘的な美しさが際立っています。

8. 狩の歌（Jagdlied）
変ホ長調、6/8拍子。
「急速に、力強く(Rasch kräftig)」という指示があり、三部形式で構成されています。曲集の中で唯一複合拍子で書かれています。

9. 別れ（Abschied）
変ロ長調、4/4拍子。
「急がずに(Nicht schnell)」という指示があり、長い結尾を持つ三部形式です。「別れ」というタイトルですが、森を離れて元の場所へ帰る様子を描いており、感傷的な雰囲気はあまり感じられません。

参考文献

門馬直美（解説）『シューマン 森の情景（解説付）』 全音楽譜出版社、1998年
西原稔『シューマン全ピアノ作品の研究 下』音楽之友社、2013年

外部リンク

森の情景 - ピティナ・ピアノ曲事典
森の情景の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)
* Ausführliche Erläuterungen zu den Waldszenen (PDF; 262 kB)

『森の情景』は、シューマンの豊かな音楽性と自然への深い愛情が感じられる作品です。各曲の個性的な描写を通じて、森の様々な表情が生き生きと表現されています。ぜひ、この美しい音楽の世界に触れてみてください。

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