植物の性

植物の性

植物の性（しょくぶつのせい）は、動物における性とは異なり、同一の個体や花の中にオスとメスの機能が共存することがあります。植物は繁殖相手を「誘う」機能と「選ぶ」機能を同時に持っている点が特徴的です。

多様な繁殖様式

種子植物（被子植物、裸子植物）の花は、非常に多様な形態を示し、繁殖方法も多岐にわたります。カール・フォン・リンネは花の構造に基づいて植物を分類しました。また、Sprengel (1793) は植物の性を研究し、受粉の過程を解明しました。この研究は、チャールズ・ダーウィンの自然選択説にも影響を与えました。

花を咲かせない植物（緑藻植物、マゴケ植物、ゼニゴケ植物、ツノゴケ植物、シダ植物など）も、造精器や造卵器といった有性生殖を行う器官を持ち、有性的な繁殖を行います。

被子植物の有性生殖

花の構造と種類

被子植物の花は、有性生殖を行う器官であり、花粉の送粉者を誘引する役割も担います。一般的な花の構造は、外側から萼片、花弁、雄しべ、雌しべが輪状に配置されています。しかし、これらの数や形、機能は種によって大きく異なります。

被子植物の繁殖システムは複雑であり、植物学者や進化生物学者は、その構造や生殖戦略について多くの用語を使用しています。Dellaporta and Calderon-Urrea (1993) は、被子植物の性に関する多様な用語を定義しました。その中でも、植物体上での雌雄器官の配置によって、花を以下のタイプに分類しています。

• - 両性花 (bisexual flowers, perfect flowers)：雄性器官と雌性器官の両方を持つ花。ユリ科、バラ科など多くの花が該当します。完全花という場合は、雄しべ、雌しべに加え、花弁と萼も持つ両性花を指します。
• - 単性花 (unisexual flowers)：雄性器官または雌性器官のどちらか一方のみを持つ花。

性型

植物の性型は、以下のように分類されます。

• - 雌雄両全株 (Hermaphrodite)：両性花のみを持つ植物。
• - 雌雄異花同株 (Monoecious)：雌雄両方の単性花を同一個体上に持つ植物。トウモロコシ、カバノキ、マツ、イチジク属などが例として挙げられます。
• - 雌雄異株 (Dioecious)：雌雄どちらかの単性花のみを持つ植物。個体は雄性器官または雌性器官のどちらかのみを持ちます。
• - 雌性型 (Gynoecious)：雌性器官のみを持つ個体。種子を生産できますが、花粉は生産できません。
• - 雄性型 (Androecious)：雄性器官のみを持つ個体。花粉を生産できますが、種子を生産できません。
• - 雌雄混株 (Subdioecious)：基本的には雌雄異株ですが、時として雌花に雄性器官、または雄花に雌性器官が発生し、雌雄同株の状態になる植物。

ある調査によれば、約12万種の被子植物のうち11%が厳密に雌雄異花同株または雌雄異株であり、7%が性的二型の中間的な構造を持つことが判明しています。また、10%の種が単性花と両性花を同時に持っています。

雄性器官と雌性器官

被子植物の花では、雄しべとその花粉が雄性器官、雌しべや胚珠が雌性器官とされます。花粉が別の花の雌しべに受粉し、精細胞が胚珠に受精することで有性生殖が完了します。

花弁は、送粉者を誘引する役割から雌性器官と考えられていましたが、Bell（1985）の研究によって、花弁は主に花粉を運ぶための雄性器官として機能していると考えられています。また、萼片が花弁のように発達し、送粉者を誘引する種も存在します。

繁殖戦略と性

植物は、遺伝的多様性を高めるために、自家受粉を避け、他の花との間で受粉を試みる様々な戦略を持っています。

受粉には、異なる花の花粉が受粉する異花受粉（他家受粉）と、同じ花または同じ個体の花粉が受粉する同花受粉（自家受粉）があります。自家不和合性という仕組みで自殖を防ぐ種もあれば、自家和合性を持つ種もあります。被子植物の約半分が自家不和合性、残り半分が自家和合性であると推定されています。

また、雌雄異熟（Dichogamy）という現象も自殖を防ぐ仕組みの一つです。これは、雄しべの花粉が熟すタイミングと雌しべが受粉可能になるタイミングをずらすことで、自家受粉を避けるものです。雌しべが先に熟する雌性先熟と、雄しべが先に熟する雄性先熟の2種類があります。

さらに、サクラソウ属やソバのように、雄しべや雌しべの長さが異なる異型花柱性を持つ種も知られています。これにより、異なるタイプの花の間でのみ受粉が可能になり、自家受粉を抑制します。

被子植物以外における有性生殖

裸子植物では、ソテツやイチョウのように鞭毛を持った精子を用いる点が被子植物と大きく異なります。例えばイチョウでは、花粉が胚珠に取り込まれた後、数ヶ月を経て精子が放出され、造卵器で受精が起こります。

シダ植物やコケ植物では、胞子体から胞子が形成され、発芽して前葉体（シダ）や配偶体（コケ）となります。これらの上で雄性器官と雌性器官が形成され、精子が卵細胞に受精します。被子植物と異なり、これらの植物は受精に水分が必要です。

脚注

参考文献

• - Bell, G. (1985) On the function of flowers. Proceedings of the Royal Society of London. Series B, Biological Sciences, 224(1235) pp. 223-265.
• - Binggeli, P., & Power, J. (1999). Gender variation in ash (Fraxinus excelsior L.)
• - Darwin, C. (1877). The Different Forms of Flowers on Plants of the Same Species.
• - Dellaporta, S.L. and A. Calderon-Urrea. (1993). Sex determination in flowering plants. The Plant Cell 5: 1241-1251.
• - Linnaeus, C. (1735). Systema Naturae.
• - Renner, S.S., & Ricklefs, R.E. (1995). Dioecy and its correlates in the flowering plants. American Journal of Botany 82: 596-606.
• - Ottoline Leyser, Stephen Day. 2003. "Mechanism in plant development" Blackwell Publishing ISBN 0-86542-742-9
• - 種生物学会編『花生態学の最前線―美しさの進化的背景を探る』 (種生物学研究 (第22号) （1999年、文一総合出版）

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