椎津城

椎津城について

椎津城は、千葉県市原市椎津に所在した日本の城で、現在は千葉県指定史跡となっています。姉崎の八坂神社の裏手の台地に位置し、南北約400メートル、東西約180メートル、標高28メートルと、市原市内でも最大級の規模を誇る城郭です。豊かな穀倉地帯を臨み、房総往還道や久留里街道西往還、椎津湊を抑える水陸交通の要所であったため、この地を巡る攻防戦が繰り返されました。

2015年に市原市の指定文化財（史跡）となり、その後、2017年には県指定史跡へと昇格しました。支城としては、久保田城、蔵波城、神代城、海保城、要害山城、万台城などが挙げられます。

城の構造

椎津城は、海に面した台地の北端に位置し、城山と呼ばれる丘が本丸となっています。本丸には土塁が残り、発掘調査の結果、その基壇部が古墳を利用していることが判明しています。

本丸の南側には二重の空堀が設けられ、特に1の堀は、幅14メートル、深さ4.5メートルと、防御に優れた薬研桝堀であることがわかっています。本丸の南には、二重の空堀を隔てて「五霊台」と呼ばれる平坦な二の丸に相当する場所があり、南北に急崖が残っています。

城の北東を流れる境川は天然の堀として機能し、その周辺には江戸時代に鶴牧藩の陣屋が置かれていました。また、東側の正坊山の台地には出城としての外郭（正坊山城）があり、空堀や土塁が残っています。城の南西部には要害台と呼ばれる外郭が舌状に伸びており、急な崖を形成しています。

発掘調査により、五霊台の南端には、堀が2本確認され、城域が広がっていたことが確認されています。さらに、主郭部や東方腰曲輪では、盛土造成が行われていたことが判明し、これは椎津合戦による落城や、その後の大規模な造成工事の痕跡と考えられています。

築城と歴史

築城に関しては諸説あり、椎名胤仲が築いたとする説、三浦高継、三浦定勝が築いたとする説、真里谷武田氏が上総北方の備えとして築いたとする説などが存在します。いずれにしても、15世紀後半には、甲斐武田氏の一族である武田信長が上総に勢力を拡大し、椎津もその支配下に入りました。

椎津城をめぐる攻防戦

椎津城は、その戦略的な位置から、幾度となく戦乱の舞台となりました。

永正16年（1519年）の戦い：小弓公方・足利義明と古河公方・足利高基が激突。足利高基が自ら出陣して椎津城を攻撃しました。
天文3年（1534年）の戦い：真里谷武田氏の内紛により、武田信隆が椎津城に籠城。足利義明の援軍を受けた武田信応との間で攻防戦が繰り広げられました。
天文21年（1552年）の戦い（椎津合戦）：里見義堯が武田信政の守る椎津城を攻撃し、武田氏は滅亡しました。この戦いは激戦となり、多くの死傷者を出しました。
永禄7年（1564年）の戦い：里見軍と北条氏政軍が衝突。北条氏が椎津城を占領しました。
天正18年（1590年）の戦い：豊臣秀吉の小田原征伐の際、浅野長政軍が椎津城を攻略し、北条方の白幡六郎が戦死。城は落城しました。

その他の情報

五霊台からは戦国時代の五輪塔が出土し、現在も祀られています。また、かつては「暦応3年」と刻まれた板碑がありましたが、所在がわからなくなっています。

椎津では、お盆の夕方に「からだみ」と呼ばれる葬式行事が行われています。これは、椎津城落城の際に、城主を偲んで行われた仮葬式が起源とも、城主を逃がすための方便とも伝えられています。

滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」には、椎津城が登場し、里見義実が真里谷入道静蓮の息女、五十子（いさらご）を娶ったという記述があります。

椎津城は、その歴史の中で、多くの人々の思惑が交錯し、戦乱の舞台となった場所です。その遺構は、当時の歴史を今に伝える貴重な史跡となっています。

参考文献

黒田基樹; 佐藤博信; 滝川恒昭 ほか 編『戦国遺文 房総編 1』東京堂出版、2010年
黒田基樹; 佐藤博信; 滝川恒昭 ほか 編『戦国遺文 房総編 2』東京堂出版、2011年
黒田基樹; 佐藤博信; 滝川恒昭 ほか 編『戦国遺文 房総編 3』東京堂出版、2012年
黒田基樹; 佐藤博信; 滝川恒昭 ほか 編『戦国遺文 房総編 4』東京堂出版、2013年
黒田基樹; 佐藤博信; 滝川恒昭 ほか 編『戦国遺文 房総編 補遺』東京堂出版、2016年
佐藤博信 編『戦国遺文 古河公方編』東京堂出版、2006年
下山治久 編『戦国時代年表 後北条氏編』東京堂出版、2010年
平井聖『日本城郭大系6 千葉・神奈川』新人物往来社、1980年
千野原靖方『出典明記 房総史年表』岩田書院、2017年

外部リンク

市原市発掘調査報告書（市原市HPより「市原市埋蔵文化財調査センター図書室」で検索）
椎津古城之図　写真
* 天正五年　酒井伯耆守宛　北条氏政書状　写真

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