榊山潤

榊山潤：歴史と人間を見つめた作家

榊山潤（さかきやま じゅん、1900年11月21日 - 1980年9月9日）は、神奈川県出身の作家であり、本名を源蔵と言いました。彼は歴史小説を得意とし、『歴史』や『毛利元就』などの代表作で知られています。また、囲碁にも深い関心を寄せ、関連する著作も残しました。

生涯

榊山潤は、1900年に神奈川県久良岐郡中村（現在の横浜市）で生まれました。彼の父親は外国人向けの理髪店を経営しており、初代桃中軒雲右衛門や力士の駒ヶ岳といった著名人が家に出入りしていました。また、父親は囲碁将棋道場も経営しており、幼い頃から囲碁や将棋に触れる機会に恵まれていました。

しかし、父親が道楽や借金の保証人になったことで家計は傾き、榊山潤は商業学校を退学せざるを得なくなりました。その後、横浜の貿易商で働きながら少年雑誌への投稿を始め、1919年に上京して雑誌『ニコニコ』の編集に携わるようになりました。この頃から「潤」の筆名で少年小説を書き始め、『少年』に投稿した作品が生田葵山に認められ、1924年に時事新報社に入社しました。

時事新報社では、『少年』の編集員から調査部、学芸部に所属し、『文芸公論』『文学時代』『文芸レビュー』などに評論、随筆、短編小説を寄稿しました。尾崎士郎、室生犀星、萩原朔太郎らと交流し、同人誌「文学党員」「新科学文芸」にも参加しました。

1932年、『新潮』に発表した「蔓草の悲劇」で文壇に認められ、時事新報社を退社して徳田秋声に師事しました。この時期には、市井の人々を描いた作品を多く手がけました。1937年には日本評論社特派員として第二次上海事変を取材し、戦争の惨禍を目の当たりにしたことで大きな衝撃を受けました。その後、朝日新聞紙上で、これまでの情痴小説は書かないと宣言しました。

この頃、最初の作品集『戦場』『をかしな人たち』が出版され、続いて『上海戦線』を刊行しました。元二本松藩士で、戊辰戦争の二本松城落城を生き延びた義父（雪夫人の父親）の佐倉強哉をモデルにした「歴史」を1938-39年に発表し、第3回新潮社文芸賞を受賞しました。その後も同人誌『文学者』に参加し、『歴史』第二部を連載、切支丹禁圧の歴史を描いた『天草』を書き下ろしました。

太平洋戦争中は徴用され、陸軍航空隊の報道班員としてベトナム、タイ、ビルマを転戦しました。デング熱で肝臓を患い帰国後、部隊の戦記出版に携わりましたが、肝炎で倒れ徴用解除となりました。戦後は二本松に疎開し、1947年に東京に戻り西巣鴨に居住しました。敗戦前後の体験記『私は生きていた』を刊行しましたが、GHQの検閲で大幅な削除を受け、創作意欲を失いました。しかし、『歴史』第三部を執筆し、第一部からまとめて刊行されると、歴史ブームに乗り再び注目を集めました。

1953年、牧野吉晴が主宰していた第二次『文芸日本』に参加し、1955年からは編集責任者となり、尾崎秀樹とともに編集にあたりました。『文芸日本』の廃刊後は、1961年から同人誌『円卓』を編集しました。1957年には中国新聞に連載した『毛利元就』を出版し、歴史小説に力を入れるようになりました。1975年から講談社の企画で、岡谷繁実『名将言行録』に倣った史伝シリーズ『新名将言行録』全5巻を刊行しました。1978年には喜寿と『新名将言行録』完成を祝い、伊藤桂一、林富士馬、駒田信二、尾崎秀樹らによる「榊の会」が結成されました。

1979年、肝硬変による貧血で入院し、翌1980年に死去しました。彼の墓は、静岡県駿東郡の小山富士霊園にあります。

榊山潤は、少年の頃に父親がパトロンとなっていた棋士から囲碁の手ほどきを受け、その才能を発揮しました。1953年には文壇本因坊となり、毎日新聞の本因坊戦など囲碁の観戦記も執筆しました。

作風と作品

榊山潤の作品は、歴史小説を中心に、人間の内面や社会の矛盾を描き出したものが多くあります。『毛利元就』や『天草』などの乱世を舞台にした作品のほか、「サル蟹合戦」「桃太郎の出征」などの伝説を題材にした寓意小説も手がけました。歴史小説を書く際には、必ずその土地を丹念に取材し、「歴史の中の人間を、体臭を以て描き得るのはやはり、小説である」と述べています。

彼の作品は、歴史の重みを感じさせながらも、現代に通じる普遍的なテーマを追求しており、多くの読者に感銘を与え続けています。

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