榎倉康二

榎倉康二（1942年11月28日 - 1995年10月20日）は、東京都出身の画家であり、インスタレーションアーティストです。彼は、1960年代後半から1970年代にかけて台頭した美術運動「もの派」の重要な一員として知られています。

もの派における榎倉康二

「もの派」は、既存の美術概念にとらわれず、石、鉄、ガラス、綿、紙、木といった素材そのものの存在を重視しました。榎倉は、これらの素材をそのまま提示するだけでなく、油を染み込ませるなど、素材に変化を加えることで新たな表情を引き出しました。また、素材と空間の相互作用に着目し、それらが互いに影響し合うような作品を制作したことが特徴です。自然物と工業製品の組み合わせや、それらを一時的な静止状態に配置することで、物質の存在を問いかける作品群は、その後の美術界に大きな影響を与えました。

来歴と初期の活動

洋画家の榎倉省吾を父に持ち、東京で生まれた榎倉康二は、1966年に東京藝術大学美術学部油画科を卒業、1968年には同大学美術研究科で修士号を取得しました。その後、1975年から亡くなる1995年まで、母校である東京藝術大学で教鞭をとりました。

1970年代初頭から、榎倉は紙、布、フェルト、革などの素材に油を染み込ませる手法を用いた作品制作を開始しました。これらの作品は、しばしばギャラリーや野外空間の壁や床を変色させるものでした。初期のインスタレーション作品は現存していませんが、写真記録として残されています。

1970年には、「第10回日本国際美術展 Tokyo biennale ‘70〈人間と物質 between man and matter〉」に参加し、油を染み込ませた藁半紙を床に敷き詰めた《場》を発表。また、《無題》(1970年)では、革製の三角錐を部屋の角に配置し、壁との関係性を強調しました。

1971年には、「第7回パリ青年ビエンナーレ」に出品した《壁》が優秀賞を受賞しました。この作品は、パリのフローラル公園で、2本の木間にコンクリート壁を築くという大胆なものでした。

榎倉康二の哲学

榎倉は、自身の作品について「肉体と物との緊張感こそ私が探りたい事であり、そしてこの緊張感が自分自身の存在を自覚し得る証しだと思う」と語っています。この言葉は、彼の作品が、単なる物質の提示ではなく、自己の存在を深く問いかけるものであったことを示しています。

写真作品

榎倉は、インスタレーションの記録写真だけでなく、写真作品も制作しました。床の水たまり、滴り落ちる水、光の反射など、閾の存在をテーマとした作品は、彼のインスタレーションと同様のテーマを扱っています。《予兆−海・肉体(P.W.-No.)》(1972年)では、波打ち際に横たわる自身の姿を捉え、身体と自然との関係性を表現しました。キュレーターのサイモン・グルームは、この作品について、「世界に帰属するための媒体としての身体、あるいは、周囲の世界からの分離の気づきとつながりたいという我々の思いを、これ以上に痛切に表現した作品はない」と述べています。

後期の作品

1980年代から1990年代にかけて、榎倉は綿布にしみをつける行為を追求し続けました。これらの作品は、《干渉》あるいは《干渉(STORY)》と題され、時系列に番号が振られました。キャンバス上で黒いペンキを塗った部分と塗っていない部分を対比させた作品や、布の表面全体にペンキを浸した作品が制作されました。また、油を浸した木材をキャンバスに押しつけたり、立てかけたりすることで、しみをつける手法も用いました。

さらに、砂や水が入った瓶、鉢植えなどを置いた小さな棚板が組み込まれた作品、布を斜めに壁に掛け、床に垂らした作品も制作しました。

展覧会

1969年に東京の椿近代ギャラリーで初個展を開催して以来、榎倉康二の作品は、日本各地の美術館やギャラリーで数多く展示されてきました。2005年には、東京都現代美術館で大規模な回顧展が開催されました。また、アメリカでは2012年に開催された「太陽へのレクイエム：もの派の美術」展で、榎倉の作品が紹介され、国際的な注目を集めました。

パブリックコレクション

榎倉康二の作品は、愛知県美術館、福岡市美術館、原美術館、広島市現代美術館、兵庫県立美術館、東京都現代美術館、埼玉県立近代美術館、国立国際美術館、東京国立近代美術館、プンタデラドガーナ美術館、世田谷美術館、東京都美術館、大阪中之島美術館など、国内外の数多くの美術館に収蔵されています。

榎倉康二は、その生涯を通じて物質と空間、そして人間の存在の関係性を問い続けたアーティストでした。彼の作品は、現在も多くの人々を魅了し、美術史において重要な位置を占めています。

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