横利根閘門

横利根閘門

横利根閘門は、茨城県稲敷市と千葉県香取市の境界付近、横利根川に位置する、国土交通省が管理する閘門です。利根川の改修工事の一環として、1914年（大正3年）に着工し、7年の歳月をかけて1921年（大正10年）に完成しました。

立地

横利根川は利根川と常陸利根川を結ぶ水路で、その上流には霞ヶ浦が広がっています。閘門は、横利根川が利根川に合流する地点に位置し、付近は千葉県と茨城県の県境となっていますが、閘門自体は茨城県稲敷市にあります。

現在、閘門周辺は横利根閘門ふれあい公園として整備され、桜の名所や釣りスポットとして親しまれています。2006年（平成18年）には、日本の歴史公園100選にも選ばれました。また、香取市内の佐原市街地と利根川北部の十六島地区を結ぶ、船舶や自動車交通の要衝でもあり、水郷のシンボルとして地域の人々に愛されています。

構造

横利根閘門は、パナマ運河の閘門と同様の複式閘門で、閘室と両端の閘頭部（閘扉室）から構成されています。閘室の有効長は90.9メートル、幅は10.9メートル、深さは平均低水位以下約2.6メートルです。当時の大型船舶、通運丸や銚子丸などを基準に設計されました。

閘室底部はコンクリートブロック敷きで、側面は法面勾配1割のコンクリートブロック積です。法面には木造の防舷材が設置され、さらに上部には法面勾配2割の芝生張斜面があります。側面を斜面状にすることで、閘室の断面積を減らし給排水時間を短縮するとともに、底部面積を減らし工費を節約しています。

閘扉室は、側壁、翼壁、基礎、底部から構成されています。側壁は長さ24.8メートル、翼壁は長さ16.5メートルで、いずれもコンクリート造りで、表面は煉瓦と石で覆われています。基礎は、コンクリートと煉瓦積みの井筒が各閘扉室に14個設けられており、底部はコンクリート造りで石張りです。

門扉は、大扉4枚と小扉4枚の計8枚で、各閘扉室に大小2枚ずつ設置されています。扉はマイターゲート（観音開きのゲート）で、大扉は閘扉室の前扉、小扉は閘扉室の後扉として使用されます。大扉は高さ約7.3メートル、幅約6.4メートルで、小扉は高さ約5.2メートル、幅約6.3メートルです。扉は軟鋼製で、鋼板に縦桁と横桁がリベットで接合されています。

使用方法

閘門は、利根川と横利根川を船で行き来する際に、水位を調整するために使用されます。例えば、利根川から横利根川へ向かう場合、閘室の水位を利根川と同じにし、利根川側の門扉を開けて船を閘室に入れます。その後、利根川側の門扉を閉め、閘室の水位を横利根川の水位に調整し、横利根川側の門扉を開けて船を出します。門扉の開閉は、以前は手動でしたが、現在は電動化され、操作盤で開閉します。

歴史

背景

横利根川周辺地域は、江戸時代から舟運が盛んで、明治時代に入っても多くの船が航行していました。1914年（大正3年）には、1日に平均169隻もの船が横利根川を通過していました。しかし、この地域は度重なる洪水にも悩まされていました。横利根川と利根川の合流点では、利根川の水位が上がると横利根川に逆流し、霞ヶ浦周辺の町村に大きな被害をもたらしていました。

利根川改修計画

利根川の洪水被害は深刻で、明治時代から何度か改修計画が立てられました。初期の計画では、利根川と横利根川の合流点を改修することが記されていましたが、閘門の建設は含まれていませんでした。1910年（明治43年）の大洪水を受け、計画が見直され、横利根閘門の建設が決まりました。

閘門の目的は、利根川の増水時に横利根川を通じて霞ヶ浦に氾濫するのを防ぎ、同時に舟運を維持することでした。霞ヶ浦は、従来は洪水時の遊水池としての役割を果たしていましたが、利根川改修計画では、これらの湖沼に川の水を逆流させず、利根川のみで洪水を処理する方針が立てられました。

工事

横利根閘門の工事は、1914年（大正3年）に着工し、第一次世界大戦の影響で遅れ、7年後の1921年（大正10年）に完成しました。工事には、延べ22万人以上が関わり、約278万個の煉瓦が使用されました。工事の中心となったのは、内務技師の中川吉造です。閘扉室の工事が最も重要で、全体の工費の84％を費やしました。基礎工事では、井筒を使用し、湧水が多い土地柄から困難を極めました。閘室は土砂を掘削後、地杭を打ち込み、コンクリートを張りました。また、閘門に接続するための導水路も建設されました。

運用開始

閘門は1922年（大正11年）3月11日に運用を開始しました。運用開始後の調査では、閘門の設置によって通船数は減少しましたが、平常時においても閘門が効果を発揮していることが示されました。利根川改修を記念して、1928年（昭和3年）には水郷公園が作られ、利根川治水記功碑が建てられました。1931年（昭和6年）には、水郷公園に中川吉造の像が建てられました。

舟運の衰退

横利根閘門は、洪水防止には役立ちましたが、舟運にとっては不利な面もありました。また、道路橋の建設や鉄道の開通により、陸上交通が発達し、舟運は衰退していきました。

横利根水門の建設

1947年（昭和22年）のカスリーン台風による洪水被害を受け、利根川の治水計画が見直されました。1971年（昭和46年）には、横利根閘門の利根川側に新たに横利根水門が完成し、洪水時の逆流防止機能は水門が担うことになり、横利根閘門は船の通航時の水位調整のみを行うようになりました。

補修作業と重要文化財指定

閘門は、長年大規模な補修が行われていませんでしたが、1994年（平成6年）に自動化工事と復元修復工事が行われました。腐食した門扉の一部を交換し、開閉作業を電動化しましたが、基本は建造当時の形と手法で復旧されました。1999年度に閘門周辺は公園として整備され、2000年（平成12年）には国指定重要文化財に指定されました。

震災後の補修工事

2011年（平成23年）の東日本大震災で、閘門は損傷を受けました。2013年から2014年にかけて、補修工事が行われ、地盤の液状化対策や亀裂の補修、開閉装置の改修などが行われました。

文化財としての価値

横利根閘門は、関東地方に多く造られた煉瓦造水門・閘門の中でも、煉瓦からコンクリートへと移行する時期の代表的な建造物です。利根川改修計画の歴史を今に伝え、大正期の閘門の中で唯一現役で稼働している貴重な土木遺産です。

周辺

水郷大橋
水郷佐原あやめパーク
十二橋

交通

香取市内循環バス（コミュニティバス）北佐原・新島ルート「横利根閘門公園」バス停下車

参考文献

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「横利根閘門 水門を補修して自動化 周辺の公園整備も進む」『日経コンストラクション』第236巻、日経BP社、1999年、pp.85-87、ISSN 0915-3470。

外部リンク

横利根閘門 稲敷観光協会 (2012年9月24日閲覧)
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