樺太鉄道

樺太鉄道株式会社：知られざる樺太の鉄道史

樺太鉄道株式会社（以下、樺太鉄道）は、大正時代から昭和初期にかけて、日本の統治下にあった樺太で活躍した鉄道事業者です。本社を栄浜郡落合町に置き、樺太庁鉄道東海岸線の落合駅から敷香駅を結ぶ路線を運営していました。その歴史は、樺太の地域開発、製紙業、そして国防という、時代の要請に深く関わっています。

樺太鉄道の設立背景

20世紀初頭、樺太は日本の領土となり、その開発が急務となりました。特に東海岸地域は、海運に頼るしかなく、冬季の海面凍結や良港の不足が課題でした。そのような状況下、1910年代に入ると、樺太ではパルプ生産が始まり、西海岸を中心に製紙工場が建設されました。しかし、東海岸には拠点がなく、実業家の小池国三らが中心となり、落合、知取、敷香にパルプ工場を建設する計画が立ち上がります。

鉄道建設の機運が高まった背景には、ロシアとの関係悪化もありました。軍部は鉄道敷設を要望しましたが、樺太庁の財政は厳しく、民間企業による鉄道建設が期待されたのです。

鉄道敷設への道のり

日本化学紙料（後の富士製紙に合併）が樺太庁に鉄道建設を働きかけたことが、樺太鉄道設立のきっかけとなります。樺太庁からの補助金交付の提案を受け、王子製紙や樺太工業も協力することになりました。1923年（大正12年）には樺太鉄道株式会社が設立され、鉄道敷設免許を取得。しかし、資金調達の難航や関東大震災による株券焼失など、数々の困難を乗り越えながら、工事は進められました。

ルート選定においては、起点を栄浜駅とする当初計画から、富士製紙の工場がある落合駅に変更。これに対し栄浜村が反発するも、最終的には落合起点が決定しました。1925年（大正14年）には落合・知取間で工事が開始され、難工事の末、1927年（昭和2年）に開通。その後も延伸工事が進められ、1936年（昭和11年）には全線が開通しました。

経営と車両

開業当初は貨客取扱量も順調に増加しましたが、昭和恐慌の影響で一時減収。しかし、1936年（昭和11年）の全線開通とともに業績は回復し、貨車収入は開業当時の5倍以上となりました。1936年（昭和11年）には、樺太初の夜行列車も運行されています。

樺太鉄道では、様々な種類の蒸気機関車や客車が活躍しました。寒冷地向けの設計ではないため故障が多かった40形、樺太のツンドラ地質に適した60形、勾配区間用に製造された80形など、それぞれ特徴のある機関車が、樺太の地を駆け抜けました。

樺太庁による買収とその後

樺太鉄道は、国防上の重要性から、帝国議会でもその買収が議論されていました。1941年（昭和16年）、樺太庁によって買収され、樺太庁鉄道東海岸線として新たなスタートを切りました。買収後、樺太鉄道の経営陣は、買収資金を元に恵須取鉄道株式会社を設立し、西海岸の鉄道敷設に尽力しました。

樺太鉄道は、その短い歴史の中で、樺太の発展に大きく貢献しました。鉄道建設の背景には、日本の国策や企業の思惑が絡み合い、数々の困難を乗り越えながら、地域を結ぶ動脈としての役割を果たしました。その歴史は、今では忘れ去られつつありますが、樺太の鉄道史を語る上で、決して欠かすことのできない存在です。

現在、樺太はロシア連邦のサハリン州となっており、当時の鉄道の痕跡を辿ることは困難になっています。しかし、樺太鉄道の存在は、日本の鉄道史、そして樺太の歴史を考える上で、重要な意味を持っています。

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