橋本本源氏物語

橋本本源氏物語：貴重な鎌倉時代中期の源氏物語写本

橋本本源氏物語は、鎌倉時代中期に書写された源氏物語の写本です。かつて著名な言語学者、国語学者であった橋本進吉氏が所蔵していたことから「橋本本」と呼ばれ、現在は人間文化研究機構国文学研究資料館に大切に保管されています。

現状と特徴

橋本本は、当初「若紫」巻のみが存在すると考えられていましたが、現在では「絵合」、「松風」、「藤袴」の巻も確認されており、計4帖が現存しています。しかしながら、各帖とも欠落部分が多く、完全な状態ではありません。興味深いことに、現存する4帖は全て同じ料紙、同じ書式で書かれており、当初は54帖すべてが揃っていたと考えられています。

筆者と本文系統

橋本本の筆者については、池田亀鑑氏によって当初は不明とされたものの、後に藤原為家筆とする説が提示されました。しかしながら、それを裏付ける明確な根拠となる極札などは発見されておらず、現在も議論の余地が残されています。

本文系統については、池田亀鑑氏は「若紫」巻に関して、青表紙本と河内本の両方の特徴が混在し、どちらにも完全に分類できない独自の系統であると指摘しています。これは橋本本の特異性を示す重要な点であり、源氏物語研究において貴重な資料となっています。

研究史と校本への採用

橋本本は、池田亀鑑氏の源氏物語写本調査において重要な対象として扱われましたが、主要な校本である『校異源氏物語』や『源氏物語大成校異編』には採用されていませんでした。しかしながら、『源氏物語別本集成続』においては、「若紫」と「松風」の巻が採用され、その本文が広く研究者たちに公開されています。

影印・翻刻

橋本本の重要性を鑑み、近年では影印や翻刻が積極的に行われています。大内英範氏による『源氏物語鎌倉期本文の研究』では、「絵合」、「松風」、「藤袴」の三帖が翻刻され、伊藤鉃也氏・淺川槙子氏編による『国文学研究資料館蔵　橋本本『源氏物語』「若紫」』では「若紫」の影印と翻刻が提供されています。これらの成果により、研究者は橋本本の本文をより詳細に検討することが可能となりました。

今後の展望

橋本本源氏物語は、その現存状況や本文系統、筆者など、多くの謎を残したまま、源氏物語研究において重要な位置を占めています。今後の研究によって、さらに多くの知見が得られることが期待され、その価値は今後ますます高まるでしょう。特に、欠落部分の発見や、筆者に関する新たな証拠の発見などが今後の研究課題と言えるでしょう。また、デジタルアーカイブ化なども視野に入れ、より幅広い研究者や愛好家にアクセス可能な形で情報提供をしていくことが重要です。橋本本を通して、源氏物語成立過程や当時の社会状況、さらには写本の歴史といった多角的な研究が進むことで、古典文学への理解が深まるでしょう。

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