橘俊綱

橘俊綱：華麗なる平安貴族の生涯

橘俊綱（たちばな の としつな）は、平安時代中期から後期にかけて生きた貴族であり、歌人としても名を残しました。摂政・関白を務めた藤原頼通を父に持ちますが、母の身分により橘氏の養子となります。その生涯は、貴族社会の複雑な人間関係と、才能、そして財力によって彩られました。

生い立ちと複雑な家庭環境

俊綱は、藤原頼通の次男として生まれました。しかし、正室である隆姫女王の嫉妬を避けるため、讃岐守・橘俊遠の養子に出されるという複雑な背景を持ちます。この事情については、『今鏡』にも記述があり、俊綱の母である祇子が橘俊遠と夫婦になった時期が、俊綱の懐妊時期と重なっていたことが原因であるとされています。ただ、その後も祇子が頼通の子を産んでいることから、隆姫への配慮が主目的だったと考えられています。

受領としての活躍と財力

後冷泉朝において、俊綱は越前権守や尾張守を歴任し、その後も丹波守、播磨守、讃岐守といった上国の国司を歴任します。この順調な受領生活は、実父である頼通の庇護によるところが大きいでしょう。受領としての活動を通じて、莫大な財力を蓄積していきました。

白河天皇の後宮との関係

延久6年（1074年）に頼通が亡くなった後も、俊綱は自らの地位を確立していきます。妻の兄弟の娘である藤原賢子が白河天皇に入内し、中宮に冊立されたことを機に、白河天皇の後宮に影響力を持つようになったようです。承保4年（1077年）には大国の近江守に任ぜられるなど、その政治力は目覚ましいものがありました。

文化人としての才能

俊綱は、文化人としても優れた才能を発揮しました。特に、造園に深い造詣を持ち、日本最古の庭園書である『作庭記』の著者の有力候補とされています。自ら造営を手がけた伏見山荘は、巨椋池を一望できる景勝地にあり、「風流勝他、水石幽奇也」と賞賛されるほどの美しさでした。『今鏡』には、弟の藤原師実が伏見山荘を訪れた際に、俊綱が豪奢にもてなした話や、俊綱が白河院に対して、鳥羽殿よりも伏見山荘の方が優れていると豪語した話が残されています。

また、歌人としても活躍し、伏見山荘では頻繁に歌会が開催されていました。『後拾遺和歌集』以下の勅撰和歌集に13首が収録されており、その才能は広く認められていました。さらに、笙や琵琶などの音楽にも優れていたと伝えられています。

晩年と伝説

寛治7年（1094年）に伏見山荘が焼亡した後、俊綱は重病を患い出家。その翌月に67歳で亡くなりました。最終官位は正四位上修理大夫兼近江守でした。

『宇治拾遺物語』には、俊綱が僧侶であった過去を持ち、熱田神宮の大宮司に侮辱を受けた雪辱を果たすという説話が残されています。また、『十訓抄』にも俊綱に関する説話が収録されており、その人物像は様々な形で語り継がれています。

まとめ

橘俊綱は、恵まれた家柄と才能、そして財力を背景に、平安時代を華麗に生きた貴族でした。受領としての手腕を発揮する一方で、文化人としても優れた才能を発揮し、後世に名を残しました。その生涯は、平安時代の貴族社会の光と影を映し出す鏡と言えるでしょう。

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