正親町町子

正親町町子（おおぎまち まちこ）／田中町子（たなか まちこ）

正親町町子は、江戸時代中期に活躍した女性で、大老格であった柳沢吉保の側室、また歌人、文学者として知られています。彼女の生涯は、出自に関する複数の説や、文学作品『松蔭日記』によって、現代に伝えられています。

生涯

延宝3年（1675年）頃に生まれたとされる町子は、初め弁子と名乗っていました。出自については、権大納言・正親町実豊の娘とする説と、正親町公通の娘とする説の二つが存在します。

実豊の娘説では、実豊と側室の田中氏の間に生まれたとされ、公通の異母妹にあたるとされます。一方、公通の娘説では、公通と水無瀬氏信の娘の間に生まれたとされます。この水無瀬氏信の娘は、新上西門院房子（鷹司房子）の侍女「常磐井」として仕え、後に「右衛門佐局」と改名し、江戸城大奥で重要な役職を務めています。

16歳で江戸に下った町子は、将軍徳川綱吉の側近であった柳沢保明（後の吉保）の側室となります。一大名の側室としては家格が高すぎたため、母方の姓である田中氏を名乗ったとされています。吉保との間には、柳沢経隆と柳沢時睦の二人の息子がいます。

町子の父を公通とする説の場合、公通は霊元天皇の使者として度々江戸へ赴いており、吉保は霊元天皇から和歌の添削を受けたり、六義園十二境を定められたりするなど、文芸面で大きな影響を受けています。このため、町子が吉保の側室になった背景には、両親の縁があったのではないかとも考えられています。

しかし、享保末年以降に成立した『柳営婦女伝系』では、町子の出自について全く異なる記述がされています。それによると、右衛門佐局の養子となった浪人・田中半蔵（後の桃井内蔵助）が、後妻の姪を養女にしたもので、実父も不明な遊女であったとされています。

町子は、享保9年3月11日（1724年4月4日）に亡くなり、東京都新宿区河田町の月桂寺に葬られました。

文学

町子は、公家的な教養を持つ文学者としても知られており、吉保の半生を『源氏物語』になぞらえて記した日記文学『松蔭日記（松家気）』を著しました。

『松蔭日記』は、江戸時代から秘本として知られており、当時の宮廷文化の残滓を色濃く伝えていることから、文学的に高い評価を受けています。「松家気」とは、松と藤を指しており、天皇や将軍、吉保などの人物を松と藤に例え、その繁栄を願った意図が込められていると考えられています。

『松蔭日記』は、1979年に古谷知新編『江戸時代女流文学全集』に収録され、2004年には上野洋三校注の岩波文庫版が出版されています。

関連作品

町子を登場人物とした作品として、以下のものがあります。

NHK大河ドラマ『八代将軍吉宗』（1995年、演：西山知佐）
NHK大河ドラマ『元禄繚乱』（1999年、演：海野けい子）

著書

『柳沢吉保側室の日記 松蔭日記』正親町町子 作, 増淵勝一訳. 国研出版, 1999.2
『松蔭日記』上野洋三 校注 (岩波文庫) 2004.7

参考文献

* 『柳沢吉保と甲府城』山梨県立博物館、2011年

もう一度検索