右衛門佐局

右衛門佐局（えもんのすけのつぼね）

右衛門佐局は、慶安3年（1650年）に生まれ、宝永3年2月11日（1706年3月25日）に亡くなった、江戸時代前期から中期にかけての大奥女中です。単に右衛門佐とも呼ばれます。権中納言・水無瀬氏信の娘で、兄弟には町尻兼量や水無瀬兼豊がいます。

生涯

右衛門佐局は、初め霊元天皇の後宮で中宮・鷹司房子に仕えていました。その後、延宝年間（1673年 - 1681年）には仙洞御所へ異動し、後水尾上皇にも仕えました。この仙洞御所での呼称が、後に大奥での名となる右衛門佐であったとされています。延宝8年（1680年）、後水尾上皇が亡くなったのを機に奥勤めを退き、兄（または甥）の町尻兼量の屋敷に身を寄せました。

貞享元年（1684年）、5代将軍・徳川綱吉と側室・お伝の方との間に生まれた鶴姫付きの上臈に抜擢され、同年6月25日に支度金100両が渡されました。この人選には、綱吉の御台所・鷹司信子の意向が働いたとされています。当時の右衛門佐局は常盤井（ときわい）と称していましたが、江戸下向を機に右衛門佐に戻しました。貞享2年（1685年）、鶴姫が紀州藩主世子・徳川綱教に輿入れする際に随行して紀州徳川家へ入りました。

『玉輿記』や『柳営婦女伝系』では、右衛門佐局が霊元天皇の後宮に仕えていた際に、鷹司房子の推薦で御台所・信子付きの上臈御年寄として江戸城大奥へ入ったとされています。しかし、右衛門佐局が後宮に仕えていた時期と江戸へ下向した時期にずれがあることや、当時の記録に信子付きとなった記録がないことから、この説には疑問が呈されています。

貞享4年（1687年）に江戸城へ戻ると、綱吉付きの筆頭上臈御年寄として大奥の総取締を担いました。その後、大典侍（寿光院）や新典侍（清心院）といった公家の姫を綱吉の側室として迎え入れることに奔走しました。また、正親町大納言家の弁子も右衛門佐局の紹介で大奥に入り、柳沢吉保の側室となり、町子と改名しました。晩年には、東山天皇の後宮で勾当内侍として仕えていた平内侍を大奥に招聘し、豊原と改名させ、自分の後継者となる上臈御年寄としました。

近衛基煕と常子内親王の息子・家煕は、上臈（事実上の側室）に町尻兼量の娘・量子を迎えています。右衛門佐局と町尻量子が叔母と姪の間柄であることから、東山天皇即位後に急速に進んだ近衛基煕父子と徳川綱吉の関係改善の背景には、右衛門佐局の存在があったと考えられています。

宝永3年（1706年）、57歳で亡くなりました。法名は心光院殿古鑑貞円大姉（心光院古媼貞円）。墓所は東京都新宿区の月桂寺にあります。

出自について

右衛門佐局の出自については、2つの説があります。

1つは、『柳営婦女伝系』に記載された説で、水無瀬氏信の娘で、霊元天皇の女御であった鷹司房子に仕えて常磐井と称していましたが、徳川綱吉の御台所である姉の鷹司信子の要請で関東に送られ右衛門佐と称し、綱吉に気に入られて綱吉付になったというものです。

もう1つは、墓所である月桂寺の墓誌によるもので、水無瀬兼俊（氏信の父）の娘で、初めは後水尾院に仕えて右衛門と称していましたが、院が亡くなった後、貞享元年に綱吉の娘・鶴姫の上臈となり、同3年に幕府の上臈に登用されたというものです。

同時代の史料を検証すると、常子内親王の日記である『无上法院殿御日記』延宝5年12月21日条には、後水尾院が女二宮（栄子内親王）の深曽木の儀式を見物するために御幸をした際、以前鷹司房子に仕えていた「ゑもんのすけ」を同行させて儀式を手伝わせたとあります。また、老中3名（戸田忠昌・阿部正武・大久保忠朝）の署名が入った『鶴姫君様御婚礼書物』（貞享元年7月4日付）には、鷹司家の諸大夫広庭祐宣の推挙に基づき、鶴姫の上臈に後水尾院に仕えていた常磐井を採用し、支度金100両を支給すると記されています。さらに、近衛基煕の日記である『基煕公記』元禄15年2月6日条には、町尻兼量の妹・右衛門佐が後水尾院の没後、兄の元に引き取られていたが、石糞を乳母の夫から譲られたことで運が開けて関東に召し抱えられて綱吉に重用されていると記されています。

これらの史料を総合すると、水無瀬氏信の娘は初め鷹司房子に仕え、その後後水尾院に召されたが、院が崩御されたため実兄の町尻兼量に引き取られました。その後、鷹司信子が鶴姫付きの上臈を京都に求めた際、房子の縁で彼女が推挙されて江戸に下ったと考えられます。時期によって右衛門佐と名乗ったり、常磐井と名乗ったりしていたと推測されます。

関連作品

右衛門佐局を題材としたテレビドラマや映画、小説が多数存在します。

テレビドラマ

大奥（1968年・関西テレビ、演：若柳菊）
怪談（1972年・毎日放送、演：白木万理）
元禄太平記（1975年・NHK大河ドラマ、演：中野良子）
日本名作怪談劇場（1979年・12ch、演：池田幸路）
大奥（1983年・関西テレビ、演：梶芽衣子）
八代将軍吉宗（1995年・NHK大河ドラマ、演：中田喜子）
元禄繚乱（1999年・NHK大河ドラマ、演：川野みゆき）
大奥〜華の乱〜（2005年・フジテレビ、演：高岡早紀）
大奥（2023年・NHK総合「ドラマ10」、演：山本耕史）※男女逆転設定

映画

大奥〜永遠〜［右衛門佐・綱吉篇］〈男女逆転〉（2012年、演：堺雅人）※男女逆転設定

小説

松本清張『大奥婦女記』（講談社、1957年）
吉屋信子『続・徳川の夫人たち』（朝日新聞社、1967年）

脚注

[1] 石田俊『近世公武の奥向構造』吉川弘文館、2021年。ISBN 978-4-642-04344-1。
「元禄期の朝幕関係と綱吉政権」、53-76頁。 /初出:『日本歴史』725号、2008年。
「綱吉政権期の江戸城大奥」、160-188頁。 /初出:『総合女性史研究』第30号、2013年。

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