正邦宏

正邦宏の生涯

正邦宏（まさくに ひろし、1895年4月25日 - 1928年6月1日）は、日本の俳優です。本名を金子政國（かねこ まさくに）といい、新劇の舞台俳優として活動を開始し、後に映画俳優へと転身しました。そのコミカルな演技から「和製ロイド」と呼ばれ人気を博しましたが、33歳という若さでこの世を去りました。

新劇の時代

正邦宏の出生地については、東京市神田区（現在の東京都千代田区神田）とする説が一般的ですが、『現代俳優名鑑』や『オレンヂのかほり 故正邦宏追悼録』には、京橋区新湊町（現在の中央区湊）と記されています。台湾総督府で高等小学校を卒業後、東京に戻り荏原中学校（現在の日体荏原高等学校）に進学。その後、慶應義塾大学理財科（現在の経済学部）に進学しますが、大学予科の段階で中途退学しました。

1913年、伊庭孝が設立した「新劇社」に参加し、有楽座での第1回公演『出発前半時間』、『チョコレート兵隊』に出演し、18歳で新劇の初舞台を踏みます。しかし、「新劇社」は翌年には解散し、正邦は「近代劇協会」に移籍。1915年には、上山草人、伊庭孝、澤田正二郎による「新劇合同」の舞台にも出演しています。1916年には伊庭孝と高木徳子が提携した「歌舞劇協会」に参加し、この時、後に妻となる女優の花房静子（のちの金子英子）と出会いました。

「歌舞劇協会」解散後、正邦は花房らとともに新たな一座を結成しますが、1919年の夏に突然俳優をやめてカフェ経営を志し、一時的に俳優業を離れます。その後、実母の援助でカフェを開業し、花房静子と結婚しました。

映画界での活躍

1920年、正邦は国際活映に入社し、映画界にデビューしました。当初は端役としての出演が多かったものの、1921年に松竹蒲田撮影所へ移籍すると、その才能が開花。1924年には『大和魂』や『島に咲く花』で主演を務めました。しかし、同年には帝国キネマ演芸（帝キネ）からのヘッドハンティングを受け、松竹キネマを退社しました。

帝キネでの活動後、東邦映画製作所に移籍しますが、同社はすぐに解散。その後、松竹キネマに復帰し、1926年には『霧の中の灯』に出演しました。当時の彼は、神田区表神保町に住み、キリスト教を信仰していたとされています。また、身長は約164.8センチメートル、体重は約53.3キログラムで、キリンビールを愛飲し、西洋煙草を常用していたと伝えられています。

早世とその後

映画俳優として活躍していた正邦宏でしたが、1926年以降、中国大陸への巡業に参加。その旅程中に胸を病み、大連の満鉄病院に入院し、1928年6月1日に33歳という若さで亡くなりました。彼の死後、遺族によって『故正邦宏追悼録 オレンヂのかほり』が刊行されました。

主な出演作品

正邦宏は多くの映画に出演しており、その中には以下のような作品が含まれます。

国際活映時代:
『湖畔の乙女』(1920)
『アルプスの花』(1920)
松竹蒲田撮影所時代:
『狂へる劔技』(1921)
『金色夜叉』(1922)
『清水の次郎長』(1922)
『琵琶唄』(1922)
『噫無情 第一篇 放浪の巻』(1923)
『お父さん』(1923)
『大和魂』(1924)
『島に咲く花』(1924)
帝国キネマ演芸時代:
『情熱渦巻く』(1924)
『勇敢なる弱者』(1924)
『女夫涙』(1925)
東邦映画製作所時代:
『運兵正戦』(1925)
『密造庫』(1925)
『人間礼讃』(1925)
松竹下加茂撮影所時代:
『大楠公』(1926)
* 『霧の中の灯』(1926)

これらの作品を通じて、正邦宏の多彩な演技と、彼が日本の映画史に刻んだ足跡を知ることができます。

正邦宏は、その短い生涯の中で、新劇から映画へと活躍の場を広げ、多くの観客を魅了しました。彼の作品は、今もなお、多くの人々に愛され続けています。

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