歩兵第8連隊

歩兵第8連隊：不当な風説に隠された実像

歩兵第8連隊は、大日本帝国陸軍に存在した連隊の一つで、大阪鎮台・第4師団の中核部隊として、明治の陸軍草創期から数々の戦役に参加しました。しかし、その歴史の裏には「またも負けたか八連隊」という里謡がつきまとい、「大阪の兵隊は弱い」という不当な風説が流布されることになりました。

里謡と大阪商人のイメージ

この里謡は、歩兵第8連隊と、口数が多く弁舌が立ち、商人気質で損得勘定に敏いという大阪商人のステレオタイプなイメージが結びついて広まりました。しかし、実際には第8連隊は特段負け戦を重ねていたわけではありません。むしろ、厳しい訓練で知られ、「丹波の鬼」「山岳戦の篠山連隊」と恐れられた篠山歩兵第70連隊の母体となるなど、その実力は高く評価されていました。

西南戦争においては、明治天皇から「戦功ご嘉賞」の詔勅を賜るという偉業を達成。太平洋戦争中のバターン・コレヒドール攻略戦においても、第8連隊は奮戦し勝利を収め、軍司令官の本間雅晴中将から謝意を述べられています。

編成と隊員の構成

連隊の所在地は大阪でしたが、所属する隊員は大阪府出身者だけでなく、奈良県をはじめとした近畿各府県や徳島県など、他の府県出身者も含まれていました。これは士官にも該当し、他の連隊でも同様に見られる構成でした。

風説の流布と影響

この里謡は、第4師団創設当初から存在し、徳富蘇峰の著作によって広まったとされています。戦後もこの里謡を唱える人々が後を絶たず、新聞社や出版社、知識人にもその影響が見られました。

中野公策は、著書『大阪と八連隊 - 大阪師団抄史』で、今東光、祖父江孝男、浅井得一、司馬遼太郎らの言及を取り上げ、この風説が広まる経緯を明らかにしています。また、谷沢永一は、自身の連載で中野の著書を取り上げ、「この里謡が事実としての根拠が絶無である旨は今や明白となった」と指摘しています。しかし、谷沢は、大阪人がこの風説に抵抗せず、むしろ言い伝えた理由を、「陸軍への反感を共有した」ためではないかと考察しています。

伊藤桂一は、連隊にも県民性があったとし、「大阪の兵隊は大阪人らしく、確実に負けるとわかっているときは無理をせず、勝てる見込みがでてきたら反撃する」と評しています。石原慎太郎もこの里謡に言及するなど、様々な人物がこの風説を前提に議論を展開しています。

東功は、イギリス人学者のゴードン･スミスが、イギリスの新聞に「大阪の兵隊は弱腰だとさげすまれていた」と寄稿したことを指摘し、この里謡の影響が日露戦争での日本兵の奮戦につながったと述べています。

名誉回復への願い

中野公策は、『大阪と八連隊 - 大阪師団抄史』のあとがきで、「心ない人々によって、根も葉もない俗謡の濡れ衣を被せられたまま、国難に殉じられた歩八出身者及び、俗謡のため迷惑を蒙っておられる大阪出身諸部隊と大阪人の冤罪は、誰に訴えたらその潔白を認めてくれるのでしょうか」と、無念の思いを綴っています。

連隊の沿革

歩兵第8連隊は、1874年に第10大隊と第14大隊を基幹に改編され、萩の乱、西南戦争、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、第一次上海事変、第2次バターン半島攻略戦など、数々の戦役に参加しました。その歴史は、日本の近代史と深く結びついています。



歩兵第8連隊は、その輝かしい戦歴と、不当な風説との間で揺れ動いた、複雑な歴史を持つ部隊でした。

もう一度検索