歴史人口学

歴史人口学の概要

歴史人口学（れきしじんこうがく）は、人口の歴史的変遷を探る学問であり、近代的な国勢調査が始まる以前の時代、特に近世における人口の動きにスポットを当てています。この分野は、フランスの歴史学者ルイ・アンリによって確立されたと広く認識されていますが、初めて教区簿冊（parish register）を人口学的に活用したのは、同じくフランスの歴史家であるピエール・グベールだと考えられています。ルイ・アンリは家族復元法を開発し、フランス北西部のオルヌ県クルレにおけるキリスト教教会の教区簿冊（1670年から1829年まで）を基に、個々の出生や結婚、死亡に関するデータを収集し、人口の微視的な変遷を描き出しました。

日本における歴史人口学

日本における歴史人口学は、近代以前の人口推定において、西道智や新井白石などの天文学者や儒学者、さらに国学者による研究に始まりました。明治以降は、伊能穎則や横山由清、ガーレット・ドロッパーズ、吉田東伍などが人口推定に関与しました。昭和初期になって、数学者の澤田吾一が古文書の詳細な分析を通じて奈良時代から平安時代の律令時代の推定人口をまとめました。その後、本庄栄治郎や高橋梵仙、関山直太郎などが研究を進めてきました。

最近の研究では、先史時代については小山修三、律令時代については鎌田元一、鎌倉・室町時代についてはウィリアム・ウェイン・ファリス（William Wayne Farris）、江戸時代については速水融や鬼頭宏といった研究者が著名です。これらは、戸数や郡郷数、田積数、課丁数、石高、出挙稲数、遺跡の数に基づくモデル計算を通じて行われました。特に日本では、宗門人別改帳という貴重な史料が存在しており、それに基づく研究が多くの成果を上げてきました。これにより、例えば17世紀の急激な人口増加や、出稼ぎ労働による都市と農村の関係の変化など、近世社会の新しい視点がもたらされました。

歴史人口学者たちの推計によれば、日本の人口は8世紀には450万から650万人とされ、中世後期の15世紀に初めて1000万人を超えたと考えられています。さらに、江戸時代前半の17世紀では人口が急増し、18世紀から19世紀の間に3000万人前後で安定していたとされています。

ユーラシアの視点

1995年には、文部省（現在の文部科学省）からの助成によって、速水融が中心となった「ユーラシア社会の人口・家族構造比較史研究」が行われました。このプロジェクトは、中国、日本、イタリア、ベルギー、スウェーデンなどが参加する国際共同研究であり、歴史人口学の視点から各地域の人口動向を比較分析しました。

参考文献

この分野の重要な著作には、速水融による『歴史人口学で見た日本』（文藝春秋、2001年）や『歴史人口学の世界』（岩波現代文庫、2012年）があります。これらの研究は歴史人口学の理解を深めるための貴重な資料となっています。

関連項目

歴史人口学に関連するテーマには、近代以前の日本の人口統計、世界人口、歴史上の推定地域人口、歴史上の推定都市人口などが含まれます。また、近代以前の都市人口統計に関しても、研究が進められています。

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