死に装束

死に装束：歴史、文化、そして現代

「死に装束」とは、故人に着せる衣服の総称です。世界各地で様々な形態が見られ、その様式は時代、文化、宗教によって大きく異なります。キリスト教圏における聖骸布のような布を纏う習慣とは区別されますが、欧米の葬儀で用いられるフューネラルドレスもその一種と言えるでしょう。

仏教文化圏における死に装束

仏教文化圏では、故人に僧侶の装束を模した「経帷子（きょうかたびら）」や「経衣（きょうえ）」、「寿衣（じゅい）」などが用いられます。これらは、死者が仏の世界へ旅立つことを象徴するものです。浄土真宗など、死後の旅を説かない宗派では、この種の装束は用いられない場合があります。

日本における死に装束：伝統と現代

日本では、死に装束は古くから白い衣を基調としていました。武士の切腹シーンを想起させる「白装束」は有名ですが、これは必ずしも死に装束の唯一の形式ではありませんでした。実際には浅葱色が用いられることも多く、新選組も浅葱色の羽織を着用していたとされています。「白装束」は、産着や神職の衣装など、様々な場面で使用される白い衣装を指す言葉であり、死に装束と同義ではありません。

日本の伝統的な死に装束は、仏式の葬儀を前提としています。故人は巡礼者や修行僧の衣装をまとって、極楽浄土への旅立つ姿を表現します。古くは親族が用意していましたが、現代では葬儀社が用意したものが一般的です。近年では、故人の希望や遺族の意向により、特別な死に装束ではなく、故人が愛用していた普段着を使用することもあります。その場合、特別仕立ての死に装束は遺体の上にかけるか、棺の中に納める程度になります。神道やキリスト教では、特に規定された死に装束はありませんが、神道では神職に似た白い衣装が用いられる場合があります。

死に装束を構成する要素

経帷子には、真言や経文が記されます。古くは女性の親族が手縫いで作成し、糸に結び目を作らないなどの習俗がありましたが、現代では葬儀社が用意する白地のものが主流です。

宝冠（宝冠、紙冠、シハン、シホウなどとも呼ばれる）は、額に付ける三角形の布です。死者の罪の赦免や魔除けを願うもの、閻魔大王への拝謁の際の正装とする説などがあります。近年は、死のイメージが強いことから、着用しないケースが増えています。

頭陀袋と六文銭は、修行僧の道具と三途の川の渡し賃を象徴するものです。火葬の妨げになるため、六文銭は印刷された紙を使用することが一般的です。木製の杖、手甲、脚絆、草履、編み笠なども用いられることがありましたが、若い年齢で亡くなった場合は省略されることもあります。数珠も用いられます。

経帷子は左前に着け、手甲、脚絆、草履は左右逆または裏返しにするのが一般的です。

死に装束を取り巻く歴史と文化

死に装束の様式は、それぞれの文化や宗教観を反映しています。例えば、東ローマ帝国の皇后テオドラは、危機に際し「帝衣は最高の死装束である」と演説したと伝えられています。また、17世紀のイギリスでは、国内羊毛産業保護のため、羊毛を埋葬布とする法律が制定されたという歴史もあります。これらの事実は、死に装束が単なる衣服ではなく、社会、経済、宗教といった様々な側面と深く関わってきたことを示しています。現代においても、死に装束を取り巻く状況は変化を続けており、故人の個性や遺族の思いを反映した、より多様な形式が見られるようになっています。

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