民族研究所

民族研究所（みんぞくけんきゅうじょ）

民族研究所は、1943年（昭和18年）に設立された日本の官立研究所です。第二次世界大戦下の日本において、民族政策への貢献を目的として設立されました。

設立の背景

1934年に渋沢敬三らを中心に日本民族学会（現在の日本文化人類学会）が発足し、民族学の研究が行われていました。しかし、当時の官学においては人類学研究が十分に評価されておらず、研究環境は十分ではありませんでした。そこで、岡正雄らを中心とする学界の指導者たちは、戦時下の状況を利用し、人類学研究機関の設立を政府に働きかけました。

設立と活動

その結果、1942年中に民族研究所の設立が決定し、1943年1月18日に勅令第20号「民族研究所官制」により文部省管轄の研究機関として設立されました。初代所長には、民族社会学の権威として知られる高田保馬が就任しました。

研究所の目的は「民族政策ニ寄与スル為諸民族ニ関スル研究ヲ行フ」ことであり、日本初の官立人類学研究機関として、岡正雄をはじめとする当時の代表的な民族学者が参加しました。研究活動は、大東亜共栄圏の啓蒙活動といった国策への協力と並行して、質の高い実証研究も行われました。

日本民族学会は、民族研究所の設立決定に伴い、その外郭団体として再編され、1942年8月21日に財団法人「日本民族学協会」と改称し、民族研究所の支援を行いました。また、日本民族学協会は、附属民族学博物館（かつての日本民族学会附属博物館）の運営も担当しました。

戦後の解散とその後

1945年8月の日本の敗戦に伴い、同年10月に民族研究所は廃止されました。しかし、日本民族学協会は活動を継続し、1964年4月には学術団体としての日本民族学会が復活しました。

組織

民族研究所は、以下の6部門で構成されていました。

総務部：企画・連絡を担当。
第一部：民族理論・民族政策・民族研究を担当。
第二部：シベリア・モンゴル・スラブ圏など北部・東部アジアを担当。
第三部：中国西北辺境・中央アジア・近東など中部・西部アジアを担当。
第四部：中国西南辺境などチベットを担当。
第五部：インドシナ半島・ビルマ・アッサム・インド・南太平洋・東アフリカなど東南アジア・インド太平洋圏を担当。

主要な研究者としては、岡正雄（総務部・第2部部長兼任）、小山栄三（第1部・第4部部長兼任）、古野清人（第3部・第5部部長兼任）らがいました。

調査活動

民族研究所は、設立当初から活発な調査活動を展開しました。以下に主な調査活動の例を挙げます。

1943年4月～6月：江上波夫・徳永康元らが北支・蒙彊・満州を調査。
1943年7月：小山栄三・服部親行・佐口透らが満州・中北支・蒙彊を調査。
1944年1月～7月：古野清人・及川宏らがセレベス・ジャワ・マライ・仏印・泰を調査。
1944年5月～8月：岩村忍・佐口透らが西北支那・華北の蒙彊回民調査。
* 1945年7月下旬：八幡一郎・江上波夫らが満蒙・北支を調査。

出版物

民族研究所は、機関誌の発行、研究会の開催、研究講座の開催、研究費の助成、出版助成など、多岐にわたる活動を行いました。

機関誌としては、1944年8月に『民族研究所紀要』が創刊され、第4冊まで刊行されました。

まとめ

民族研究所は、戦時下の日本において、民族学研究の推進と国策への協力という二つの役割を担った機関でした。その活動は、戦後の日本における人類学研究の発展にも影響を与えました。

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