民族移動時代

民族移動時代：ヨーロッパを揺るがした大移動

西暦300年から700年にかけて、ヨーロッパでは大規模な民族移動が起こりました。この時代は、ゲルマン系、スラブ系、そして東方系の様々な民族が、既存の勢力圏を大きく塗り替えるほどの移動を行い、ヨーロッパの歴史に大きな影響を与えました。

移動の要因

民族移動の要因としては、いくつかの説が挙げられています。中央アジアからのテュルク系民族の圧力、人口増加による圧力、気候変動、そして疫病の蔓延などが、人々を故郷から立ち上がらせる大きな要因となったと考えられています。これらの要因が複雑に絡み合い、大規模な移動を引き起こしたのです。

ゲルマン系民族の移動

ゲルマン系民族は、この民族移動時代における主要な担い手でした。西ゴート族、東ゴート族、ブルグント族、ランゴバルド族、アングロ・サクソン族、ジュート族など、多くのゲルマン系民族が西ローマ帝国の領域へと移動しました。

まず、フン族の圧力から逃れるように西ゴート族、東ゴート族が東ローマ帝国領内に移動し、傭兵として地位を築きました。その後、ブルグント族はフランス北部、ランゴバルド族はイタリア、アングロ・サクソン族とジュート族はブリタニアへと移動しました。そして、ケルト系、スラブ系、ラテン系民族と混血したフランク族が、西ヨーロッパでの勢力を拡大していきました。初期に移動したゴート族などはローマ人に同化しましたが、フランク族はローマ文化を受け入れつつも、独自の文化と勢力を維持し、後のドイツやイギリスなどの国家形成に大きな影響を与えました。また、北欧からヴァイキングが各地に進出し、その血統はヨーロッパ各地に残されています。

西ゴート王国

ドニエプル川流域に住んでいた西ゴート族は、フン族の圧力を受け、バルカン半島へ移動し、東ローマ帝国で傭兵として活動していました。指導者アラリック1世は、東ローマ帝国との対立を経て、西ローマ帝国へと移動し、イタリア半島に進出しました。418年には西ローマ帝国との合意の下、トゥールーズを中心とする西ゴート王国を建設。ガリアとヒスパニアに勢力を拡大しましたが、フランク族との抗争を経て、イベリア半島へと勢力の中心を移しました。しかし、711年にウマイヤ朝の攻撃を受けて滅亡し、イベリア半島はレコンキスタの舞台となります。

東ゴート王国

東ゴート族もフン族の圧力からバルカン半島へ移動し、東ローマ帝国で活動しました。指導者テオドリックは、東ローマ皇帝ゼノンの命令でイタリアに侵攻し、オドアケルを倒して493年にイタリア王となりました。東ゴート王国は東ローマ帝国と対立し、ユスティニアヌス1世によって滅ぼされました。

フランク王国、ブルグント王国、ランゴバルド王国

フランク族は、西ローマ帝国の傭兵として活躍した後、政治的な影響力を強めていきました。5世紀にはガリアでブルグント王国、ランゴバルド王国を滅ぼし、勢力を拡大。クローヴィス1世は西ローマ帝国の名誉執政官に任命され、カール大帝はローマ皇帝として戴冠しました。

アングロ・サクソン七王国

アングロ・サクソン人はブリタニアに定着し、七王国時代と呼ばれる時代を築き上げました。

ヴァイキング

北欧からヴァイキングが各地に進出し、略奪や植民地化を行いました。

東方系民族の移動

現在のポーランドやチェコなどの地域、そしてサルマティア（現在のベラルーシ南部からウクライナ）には、スキタイやサルマタイの影響を受けたスラヴ人の文化圏が存在していました。フン族の圧力を受け、東ヨーロッパ全土へと進出し、この地域を支配していきました。

近年では、プロト・スラブ人に関する研究が進みつつあります。その代表例がヴァンダル人で、彼らは当初はプロト・スラブ人であったと考えられていますが、ゴート族との交流などを通してゲルマン系言語を用いるようになったとされています。ヴァンダル語に関する資料は乏しく、彼らの言語が本当にゲルマン系であったかは不明です。

この地域には、イラン系のサルマタイ人も住んでおり、フン族やアヴァール族などの騎馬民族も侵入し、スラヴ系やゲルマン系の民族を征服していきました。アヴァール族はテュルク系とされ、スラヴ祖語が共通語として使用されていたとする説もあります。

フン族

フン族は、大規模な移動を引き起こした騎馬民族です。

サルマタイ

サルマタイはイラン系民族で、スキタイ人を滅ぼして勢力を拡大しました。フン族と共に西進し、東ゴート族を破り、東ヨーロッパに進出しました。後にスラブ人に吸収されましたが、ポーランド近辺ではサルマタイ文化が影響を残しました。

アラニ族

サルマタイの分派勢力であるアラニ族も活動しました。

スラブ族

スラブ族は東ヨーロッパで勢力を拡大していきました。

比喩としての「民族大移動」

現代では、年末年始やゴールデンウィークなどの帰省ラッシュを「民族大移動」と比喩的に表現することがあります。

まとめ

民族移動時代は、ヨーロッパの歴史において大きな転換点となりました。様々な民族の移動と、それによる文化交流や衝突は、後のヨーロッパ社会の形成に大きな影響を与えました。この時代を理解することは、現代ヨーロッパを理解する上で欠かせない要素と言えます。

もう一度検索