水戸鉄道

水戸鉄道（みとてつどう）

水戸鉄道は、日本の鉄道黎明期である明治時代に設立された私設鉄道会社です。現在の東日本旅客鉄道（JR東日本）水戸線および常磐線の一部にあたる区間の建設・運営を手掛けましたが、開業からわずか2年後の1891年に日本鉄道に事業一切を譲渡し、その役目を終えました。

なお、1902年から1927年にかけて、現在のJR水郡線の一部区間を運営していた同名の「水戸鉄道」が存在しますが、資本関係など、両社間に直接的な繋がりは一切ありません。

歴史

計画段階

水戸鉄道の構想は、1887年（明治20年）1月19日に茨城県出身の実業家たち、すなわち涸沼西海岸（現在の茨城町）出身で川崎銀行頭取を務めた川崎八右衛門、水戸徳川家で家令を務めた長谷川清、県北部の豪商である嚆載、そして県会議員の飯村丈三郎の4名が、水戸から小山に至る鉄道路線の建設に関する創立願書を政府に提出したことに始まります。

この鉄道計画には、当時の茨城県令であった安田定則の強い意向が深く関わっていました。安田県令は、前任者が重視した水運振興とは異なり、鉄道建設を県政の最重要課題と位置づけていました。これは、当時の日本政府が東海道本線建設などを急ぎ、鉄道網整備を国家の基幹事業として推進していた流れに乗ったものであり、また安田県令自身のヨーロッパ視察経験も影響していると考えられています。

こうした背景の中、茨城県は鉄道敷設に関する調査委員会を設け、水戸・笠間・下館・結城を経由して小山に至る「北線」ルート案と、水戸・石岡・土浦・下妻を経由して古河に至る「南線」ルート案のどちらが適切かについて、工部省鉄道局長官である井上勝に意見を求めました。井上勝は、距離が短く建設費用が抑えられること、また南線が既存の水運と競合する可能性が高いことを理由に、北線ルートを推奨しました。これを受けて、水戸鉄道の出願者たちは正式に北線案を採用し、同年4月15日に追加の願書を提出しました。

一方、同じ1887年4月7日には、新治郡の豪商を中心とした13名が「常総鉄道」を設立し、南線ルートでの鉄道建設を出願しました。これは、水戸鉄道の発起人に県南部の人間への配慮が不足していると感じたことによる行動でした。水戸鉄道と常総鉄道のルートを巡る対立は県議会でも議論され、常総鉄道側には水戸鉄道への同調が要請されましたが、常総鉄道側はこれを拒否。最終的に、両社の出願は共に政府へ提出されることとなりました。しかし、鉄道局が北線を推奨していたことが影響し、政府は常総鉄道の出願を却下し、水戸鉄道に特許を与えました。

設立から建設

同年5月、水戸鉄道は正式に会社として設立されました。初代社長には、既に日本鉄道の社長を務めていた奈良原繁が就任しました。株主構成を見ると、宮内省、三井、岩崎、安田善次郎といった大口出資者の名が見られるほか、渋沢栄一、河野敏鎌、益田孝など、当時の日本を代表する中央財界の重要人物が名を連ねていました。鉄道建設は鉄道局による国営工事として進められ、同年8月10日に着工。鬼怒川にかかる橋梁を除けば特に大きな難所もなく、わずか1年2カ月ほどという短期間で工事は完了しました。

こうして、1888年（明治21年）11月3日には開通式と試運転が盛大に行われ、榎本武揚を筆頭に約300名もの来賓が集まり、陸軍軍楽隊も動員されたといいます。そして、1889年（明治22年）1月16日には正式に営業運転が開始されました。また、建設と並行して、1888年3月には水戸鉄道の営業管理業務を日本鉄道へ委託する契約も締結されています。

開業から譲渡、そして消滅へ

営業開始後の水戸鉄道は、年間約4万円の黒字を計上するなど、経営状況は比較的良好でした。営業係数も44程度と、効率的な運営がなされていたことが伺えます。しかし、前述の通り業務を日本鉄道に委託していたこと、さらに社長も日本鉄道と同じ人物（奈良原繁）であったことから、次第に一体化が進んでいきました。そして、1891年（明治24年）4月29日に開催された株主総会において、水戸鉄道の一切の事業を日本鉄道へ譲渡することが決定されました。

この決定に基づき、翌1892年（明治25年）3月1日、水戸鉄道はその事業を日本鉄道に引き継ぎ、会社としての歴史に幕を下ろしました。開業からわずか2年強という短い期間での終焉でした。

運行形態と運賃

開業当初の旅客運賃は、下等で1マイルあたり1銭に設定されていました。小山から水戸までの全区間を乗り通した場合の運賃は42銭でした。この運賃は後に約23%値上げされています。また、中等客車は下等の2倍、上等客車は3倍の運賃体系でした。

旅客列車は当初、午前と午後にそれぞれ1往復ずつの計2往復が運行されていましたが、後に4往復に増便されました。全区間（小山～水戸間）の所要時間は2時間40分でした。

車両

水戸鉄道が日本鉄道に事業を譲渡した時点で保有していた車両は、蒸気機関車3両、客車12両、貨車51両でした。

蒸気機関車は全て、イギリスのダブス社で製造された車軸配置2-4-2（先輪1軸、動輪2軸、従輪1軸）のタンク式機関車でした。これらの機関車は、後に鉄道院の500形機関車となりました。水戸鉄道での車両番号は131号、133号、135号と付番されていましたが、これは発注の経緯から、官設鉄道や日本鉄道の車両番号と通番になっていたためです。奇数番号が付与されたのは、当時これらの機関車が新橋鉄道局の所管であったためとされています。

駅一覧

1892年に日本鉄道へ事業譲渡される直前に、水戸鉄道が運営していた駅は以下の通りです。

小山 - 水戸間（41マイル45チェーン ≈ 67.0km）
小山駅 - 結城駅 - 川島駅 - 下館駅 - 岩瀬駅 - 福原駅 - 笠間駅 - 宍戸駅 - 内原駅 - 水戸駅

水戸 - 那珂川間（0マイル61チェーン ≈ 1.2km、貨物線）
水戸駅 - 那珂川駅

これらの駅のうち、小山駅、結城駅、川島駅、下館駅、岩瀬駅、福原駅、笠間駅、宍戸駅、内原駅、水戸駅は現在のJR水戸線の駅として存続しています。また、那珂川駅は貨物線上の駅でした。

水戸鉄道は短い歴史でしたが、現在の茨城県における主要鉄道路線網の基礎を築いた重要な存在と言えます。

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