永谷宗円

永谷宗円：煎茶の革新者

永谷宗円（ながたに そうえん）は、江戸時代中期に活躍した庄屋であり、茶業家です。彼は、それまで主流だった抹茶とは異なる、新しい製法の煎茶「青製煎茶」を開発し、今日の煎茶の礎を築きました。

生い立ちと家業

宗円は、天和元年（1681年）に、代々苗字帯刀を許された名家である永谷家に生まれました。永谷家は、現在の京都府宇治田原町湯屋谷で庄屋を務める家柄で、庭には樹齢を重ねた茶樹がありました。この茶樹は「一樹園」として知られ、多くの人が訪れていました。宗円は、家業として茶園を営む傍ら、庄屋として村の発展にも尽力しました。

青製煎茶製法の開発

当時、煎茶は抹茶とは異なり、番茶のように煮出して飲むものでした。宗円は、この煎茶を抹茶のように美しい緑色にし、美味しく飲めるようにすることを目標としました。

彼はまず、茶葉の選別に着目しました。従来の煎茶は新旧の葉が混ざっていましたが、宗円は抹茶と同様に新芽だけを摘み取るようにしました。次に、茶葉を煮るのではなく、蒸す方法を採用しました。さらに、乾燥方法も自然乾燥から、焙炉で揉みながら乾燥させる方法へと変更しました。これらの改良を重ね、約15年の歳月を経て、1738年（元文3年）に青製煎茶製法を完成させました。

煎茶の普及

宗円は、新しい煎茶の販路を拡大するため、江戸に進出しました。当時の江戸は、経済・文化の中心地であり、「京もの」がもてはやされる傾向がありました。宗円は、江戸の茶商に試売を依頼し、日本橋の山本嘉兵衛（後の山本山）がその品質を高く評価し、積極的に販売しました。

山本嘉兵衛は、宗円の煎茶を「天上」または「天下一」と名付けて売り出し、江戸で評判となりました。また、山本嘉兵衛は湯屋谷に茶園を設け、茶問屋との関係を築きました。宗円の煎茶の普及とともに山本嘉兵衛の名声も高まり、山本家から永谷家へ毎年小判が贈られるようになりました。

煎茶道の始祖とされる売茶翁も、宗円を訪ねてその煎茶を絶賛したと伝えられています。

晩年と死後

宗円は、安永7年（1778年）に98歳で亡くなりました。彼は、生前に煎茶製法を公開しましたが、当時は抹茶が主流であったため、すぐに煎茶が普及することはありませんでした。しかし、宗円の功績は後世に称えられ、1924年（大正13年）には従五位下に叙せられ、1954年（昭和29年）には「茶宗明神」として神社に合祀されました。

また、宗円の功績をまとめた書籍も出版され、彼の生誕地には交流拠点施設が設けられました。

子孫と評価

宗円の子孫には、永谷園創業者の永谷嘉男がいます。永谷園は、宗円の命日にちなんで5月17日を「お茶漬けの日」に制定しています。

宗円による青製煎茶製法の開発は、宇治茶業に新しい展開をもたらしました。当時の宇治茶業は、高率の年貢や物価の高騰により苦境に立たされていましたが、宗円の煎茶は宇治茶の再生に大きく貢献しました。

宗円の煎茶製法は、彼一人の功績ではなく、宇治や近江などにも同様の製法があったとする見方もあります。しかし、宗円が商品としての煎茶の価値を見出したことは、特筆すべき点です。

まとめ

永谷宗円は、青製煎茶製法を開発し、その普及に尽力したことで、現代の煎茶文化の基礎を築いた人物です。彼の功績は、日本茶の歴史において重要な位置を占めています。

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