汗血馬

汗血馬（かんけつば）

汗血馬は、中国の歴史において特別な存在として語り継がれてきた名馬です。「血のような汗を流して走る馬」という意味を持つこの名は、その特異な外見と優れた能力に由来します。

歴史的背景

紀元前4世紀頃から、中国は遊牧騎馬民族の侵入に悩まされていました。漢民族が使用していた馬は、北方民族の騎兵が駆る機敏で頑健な馬に比べ、体力的に劣っていました。重装備の兵士を乗せて戦うことが難しく、紀元前2世紀初めの匈奴との戦いでは、漢民族側の騎兵は多くの馬を失いました。そのため、強く健康な北方の馬を手に入れることが、防衛の要と考えられました。

前漢の武帝時代、張騫が西域への大旅行から帰還し、大宛（フェルガナ）に名馬が産出することを報告しました。武帝は外交交渉で汗血馬を手に入れようとしましたが決裂。2度の遠征軍を派遣し、多数の名馬と繁殖用の馬約3000頭を得ることに成功しました。これにより、漢代末までに中国北部で30万頭もの馬が飼育されるようになったと言われています。

武帝は汗血馬を手に入れた喜びを歌に託し、「西極天馬の歌」を作らせてその美しさを称えました。甘粛省武威市の雷祖廟雷台漢墓から出土した銅像「馬踏飛燕」（ばとうひえん）は、汗血馬をモデルにしたという説が有力です。

汗血馬の特徴

汗血馬は、1日に1千里（約500km）を走ると伝えられています。これは誇張表現である可能性が高いですが、現存するアハルテケ（アカール・テケとも呼ばれる）という品種は、4152kmを84日間で走破した記録があります。そのため、三国志に登場する名馬「赤兎馬」のモデルになったという説もあります。

「汗血馬」という名前の由来については、実際に血を流していた、あるいはそう見えたという説があります。馬の毛色によっては、汗を流した時に血のように見えることがあるようです。また、寄生虫に寄生された馬は、実際に血の汗を流すことがあります。ただし、寄生虫による能力低下は、一般的には大きくないとされています。

寄生虫の寄生（皮膚表面での吸血）による滲んだ血液が「血を流す」ように見え、かつその寄生虫による皮膚の刺激（痛み・痒み）によって、あたかも狂ったかのように（通常の馬としての巡行走行速度や走行距離以上に）疾走したというのが汗血馬のいわれでは、という説もあります。

現代の汗血馬

現在、中国ではトルクメニスタンから輸入したアハルテケを「汗血馬」として200頭以上飼育しているそうです。

汗血馬は、その美しい外観と優れた能力だけでなく、歴史的な背景からも、人々を魅了し続けています。

関連項目

名馬一覧
赤兎馬
千里馬 - 朝鮮半島において本種の概念が土着化したもの。

外部リンク

「飛燕を踏んで翔ぶ：銅製の「奔馬」」人民中国 - 汗血馬をモデルにしたと言われる「馬踏飛燕」像

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