張騫

張騫（ちょうけん）

張騫は、前漢の武帝に仕えた軍人であり外交官です。紀元前2世紀、匈奴に対抗するため、西方の大月氏との同盟を目指し、歴史的な探検旅行を敢行しました。彼の活躍は、東西交流の幕開けであるシルクロードの形成に大きく貢献し、後世に大きな影響を与えました。

生涯

張騫は漢中郡城固県の出身で、武帝の時代に郎として仕え、宿衛の役目を務めていました。当時、漢は北方の強敵である匈奴に苦しめられており、その対策として匈奴の背後にある大月氏と同盟を結ぶことを計画しました。

大月氏への派遣

武帝は、匈奴に敗れて西方に逃れた大月氏に、かつての恨みを共有して匈奴を挟撃しようと考えました。そこで、張騫がこの大役を担うことになり、100人以上の使節団を率いて西域へと出発しました。しかし、当時の漢には西域に関する情報が乏しく、大月氏の正確な位置すら不明な状態でした。

出発後、張騫一行は匈奴の勢力圏内で捕らえられ、10年以上にわたり拘束されました。張騫は匈奴の妻を娶り子をもうけましたが、使命を忘れず、脱走を試みました。そして、ようやく匈奴から逃れることに成功し、西方へと向かいました。

数ヶ月の旅の後、張騫はフェルガナ（大宛）に到着。大宛の王の歓迎を受け、大月氏への道順を教えてもらいました。さらに、康居を経由し、ようやく大月氏の地にたどり着きました。しかし、大月氏は既に豊かな生活を送っており、匈奴への復讐心は薄れていました。そのため、張騫は同盟の交渉に失敗し、帰国を決意しました。

帰路でも再び匈奴に捕らえられましたが、匈奴の内紛に乗じて脱出。出発から実に13年もの歳月を経て、ようやく漢へと帰還しました。出発時に百人以上いた使節団は、帰還時には従者一人だけになっていました。

再度の派遣

張騫は、大夏（バクトリア）で蜀の特産品が売られているのを発見し、その入手ルートを尋ねると、身毒（インド）を経由していることを知りました。この発見から、張騫は身毒経由で西域に行けば、匈奴の領域を通らずに済むと考え、このルート開拓を武帝に進言しました。

武帝はこれを受け入れ、張騫を再び派遣しましたが、この探検では身毒への道は開拓できませんでした。しかし、途中の滇国との交流が始まるきっかけとなりました。

その後、張騫は衛青将軍の下で匈奴との戦いに参加し、その功績によって博望侯に封じられました。しかし、紀元前121年の遠征で、軍律違反を犯して処刑されそうになりましたが、多額の金銭を納めることで死罪を免れました。ただし、列侯の地位は剥奪されています。

次に張騫は、匈奴の背後にいる烏孫との同盟を提案しました。烏孫は、かつて匈奴によって父王を殺害されており、匈奴に不満を抱いていたからです。紀元前119年、武帝は再び張騫を烏孫へ派遣しました。今度の使節団は、300人という大所帯でしたが、匈奴の妨害はなく、無事に烏孫に到着しました。

しかし、当時の烏孫は政治情勢が不安定で、漢のことを何も知りませんでした。そのため、同盟は実現しませんでした。紀元前115年、張騫は帰国しましたが、烏孫の使者が同行し、漢の情報を持ち帰りました。これが西域に伝わることで、漢と西域との交流が始まり、交易路が開かれました。この道が、後にシルクロードと呼ばれるようになりました。

紀元前114年、張騫は死去しました。彼の死後も、漢の使節は「博望侯」と名乗ることで、西域の人々から信用を得たと伝えられています。

張騫の業績

張騫の最大の功績は、西域の情報を漢に持ち帰ったことです。これにより、漢は西域諸国との関係を築き、東西交易の道を開拓しました。彼の探検は、シルクロードの形成に大きく貢献し、東西文化の交流を促進しました。また、彼の外交活動は、漢の対外政策に大きな影響を与え、漢帝国が繁栄する基盤を築きました。

登場作品

張騫を題材にした作品も数多く存在します。

テレビドラマ

『漢武大帝』（2004年、中国）

小説

『張騫』（2001年、桐谷正、幻冬舎、幻冬舎文庫）
『張騫』（2002年、塚本靑史、講談社、講談社文庫）
「汗血馬を見た男－張騫」『反骨列伝』所収（1998年、伴野朗、PHP文庫）

参考文献

西嶋, 定生『秦漢帝国』講談社〈講談社学術文庫〉、1997年。ISBN 4061592734。
太田幸男「前漢」『中国史先史〜後漢』。
西江清高、竹内康浩、平㔟隆郎、太田幸男、鶴間和幸著、松丸道雄、池田温、斯波義信、神田信夫、濱下武志編『中国史先史〜後漢』 1巻、山川出版社〈世界歴史大系〉、2003年8月。ISBN 4634461501。
鶴間, 和幸『中国の歴史3 ファーストエンペラーの遺産:秦漢帝国』（初版）講談社。ISBN 4062740532。

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