江亢虎

江亢虎：社会主義から伝統思想へ転向した政治家の生涯

江亢虎（こう こうこ）は、中華民国の政治家であり、初期には左翼運動家として活動しました。清朝末期に中国社会党を結成し、その指導者として活躍しましたが、後年には伝統思想に傾倒し、保守派と見なされるようになりました。日中戦争期には汪兆銘政権に参加し、その要職を歴任しました。

中国社会党の結成と初期の活動

1883年に生まれた江亢虎は、幼少期から学問に励み、12歳で北京の東文学堂に入学しました。1901年からは日本に留学し、その後も1903年と1907年に再度日本に留学しています。これらの留学経験を通じて、社会主義者やアナキストと交流し、社会主義思想に傾倒していきました。1909年には、ブリュッセルで開催された第二インターナショナル大会に参加し、社会主義運動への関与を深めます。

1910年から1911年にかけてヨーロッパ各国を訪問した後、上海で社会主義研究会を組織し、1911年11月には社会主義研究会を改組して中国社会党を結成しました。江亢虎の回想によれば、最盛期には400以上の支部と50万人の党員を擁していたとされています。結党当初の社会党綱領にはアナキズムの影響が見られましたが、翌年には早くも改良主義的な傾向を明確化し、沙淦らアナキスト系の党員が離脱する結果となりました。

左翼運動からの失脚と転向

1913年、袁世凱によって社会党が解散させられると、江亢虎はアメリカに渡り、カリフォルニア大学で講師を務めました。この際、1万冊に及ぶ中国語の蔵書を同大学に寄贈したと伝えられています。1920年に帰国後、1921年にはソ連を訪問し、モスクワで開催されたコミンテルン第3回代表大会に参加しました。この時、中国人としては初めてレーニンと会見したとされています。当時、江亢虎は民主集中制と少数の指導層による革命を志向していたと言われていますが、陳独秀や李大釗らによって1920年に中国共産党が結成され、張太雷と于秀松がコミンテルン議長のジノヴィエフに対し「江は単なる政客に過ぎず中国のプロレタリアを代表していない」と異議を唱えました。その結果、中国共産党が中国のプロレタリア政党として認知され、以降、中国の左翼運動は共産党が中心となって展開されることになります。一方、江亢虎は帰国後、反共を前面に出した新社会主義を主張するようになりました。

1924年には社会党を再結成しましたが（翌1925年に中国社会民主党と改称）、国民党による北伐が進展する中で、江亢虎は直隷派の呉佩孚を支持したため、国内世論の非難を浴びることになりました。まもなく同党は解散し、江亢虎は1927年に再びアメリカに渡り、カナダのマギル大学で教鞭を取りました。1933年に帰国してからは、伝統思想に傾倒し、保守・反共的な著述に専念するようになりました。

汪兆銘政権での活動と晩年

日中戦争（抗日戦争）勃発後、江亢虎は一時香港に逃れましたが、1939年に汪兆銘（汪精衛）の要請を受けて上海に赴きました。江亢虎は「双十節対時局宣言」を執筆・発表し、中国文化を中心とした東亜新秩序の樹立を主張しました。1940年3月に汪兆銘政権（南京国民政府）が成立すると、江亢虎は国民政府委員、考試院副院長を歴任し、1942年には考試院院長に昇進しました。

戦後、江亢虎は漢奸として蔣介石の国民政府に逮捕されましたが、国共内戦の間は裁判が開かれることはありませんでした。中華人民共和国成立後も、江亢虎は上海で収監され続け、1954年12月7日に上海の獄中で病死しました。71歳でした。

江亢虎の生涯は、社会主義運動から伝統思想への転向、そして汪兆銘政権への参加という、激動の時代を反映したものでした。彼の思想と行動は、中国近現代史における複雑な政治状況を理解する上で重要な意味を持っています。


参考文献
曽業英「江亢虎」中国社会科学院近代史研究所『民国人物伝 第一巻』中華書局、1978年。
劉寿林ほか編『民国職官年表』中華書局、1995年。ISBN 7-101-01320-1。

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