江刺郡

江刺郡：歴史と変遷

江刺郡は、岩手県に存在した郡である。その歴史は古く、平安時代まで遡る。802年、坂上田村麻呂による胆沢城築城と周辺地域支配の確立を機に、周辺地域は組織化され始める。804年には、江刺郡は胆沢郡、磐井郡と共に「胆沢三郡」として成立した。その後、10世紀には磐井郡が国府多賀城領に編入され、「奥六郡」の一つとして、岩手郡、志和郡、稗抜郡、和賀郡、伊沢郡と共に岩手地方の中核をなす郡へと発展していく。

近世に入ると、江刺郡は仙台藩の領地となり、明治維新を迎える。明治元年の仙台藩降伏、陸奥国の分割を経て、江刺郡は陸中国に属することとなる。その後、花巻県を経て一関県、水沢県と管轄が移り変わり、明治9年には岩手県の管轄下に置かれた。明治11年の郡区町村編制法施行により、行政区画としての江刺郡が正式に発足した。胆沢郡とともに「胆沢江刺郡役所」が胆沢郡塩竈村に設置された。

明治22年の町村制施行により、江刺郡は1町12村に編成された。岩谷堂町、愛宕村、羽田村、黒石村、田原村、藤里村、伊手村、米里村、玉里村、梁川村、福岡村、広瀬村、稲瀬村など、多くの村が成立した。福岡村は現在の北上市の一部、それ以外の村々は現在の奥州市を形成する地域に位置している。明治30年には郡制が施行され、郡役所が岩谷堂町に設置された。

大正時代に入ると、大正12年に郡会が廃止され、大正15年には郡役所も廃止された。昭和17年には、胆沢郡とともに「胆江地方事務所」の管轄下に置かれた。

昭和29年には、郡の編制に大きな変化が起こる。黒石村と羽田村は胆沢郡の他の町村と合併して水沢市となり、江刺郡から離脱した。同じく、福岡村は和賀郡、胆沢郡の町村と合併して北上市となり、江刺郡から離脱した。

昭和30年には、残された江刺郡の町村が合併して江刺町が発足する。しかし、その年のうちに江刺町の稲瀬地区の一部が北上市に編入される。そして、昭和33年、江刺町は市制施行し、江刺市となる。これに伴い、江刺郡は消滅した。これは明治29年の郡の再編以来、岩手県で初めて起こった郡の消滅であった。

江刺郡の歴史は、岩手地方の歴史、特に奥州地方の歴史と深く関わっている。平安時代からの長い歴史の中で、幾度もの行政区域変更や合併を経て、現在の奥州市や北上市の一部を形成する地域へと発展した。その変遷は、時代の流れと地方行政の変容を反映したものであり、歴史研究において重要な事例となっている。 江刺郡の歴史を詳細に調査することで、岩手地方、ひいては日本の地方行政史をより深く理解することができるだろう。この歴史的変遷を跡付けることは、現代の地域社会を考える上でも貴重な示唆を与えてくれる。

参考文献として、『角川日本地名大辞典』3 岩手県、『旧高旧領取調帳データベース』、そして『江刺市史』第2巻、第3巻が挙げられる。これらの資料は江刺郡の歴史を研究する上で重要な役割を果たしている。

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