江戸三座

江戸三座：歌舞伎を支えた三つの劇場

江戸時代中期から後期にかけて、江戸の町で多くの人々を魅了した歌舞伎。その興行を許された芝居小屋は、最終的に「江戸三座」として知られるようになりました。本稿では、江戸三座の成立から明治時代にかけての歴史、その興亡、歌舞伎発展への貢献について詳細に解説します。

歌舞伎の隆盛と芝居小屋の規制

慶長年間（1596-1615年）、出雲阿国や名古屋山三郎らによる歌舞伎踊りが人気を博し、歌舞伎は江戸の町に広がり始めました。しかし、遊女や若衆を伴う興行は風紀を乱すとして禁止され、野郎歌舞伎は興行権の認可制へと移行しました。

芝居小屋の乱立は、当時頻発した火災への対策として問題視されていました。木造建築の芝居小屋は火災の危険性が高く、一度火事が発生すると延焼被害が甚大だったためです。そのため、奉行所は芝居小屋の数を制限する方針を取りました。

江戸四座から江戸三座へ

延宝の初めごろ（1670年代）には、中村座、市村座、森田座、山村座の「江戸四座」が官許を得て興行していました。官許の証として、芝居小屋の入口上部に櫓（やぐら）が設置されていました。櫓のない芝居小屋は宮地芝居と呼ばれ、様々な制限がありました。

正徳4年（1714年）、山村座が取り潰され、中村座、市村座、森田座の「江戸三座」となりました。その後も、座元が後継者を欠いたり経営難に陥ったりすると、興行権が譲渡されたり、別の座元が興行を行うことがありました。享保末年以降（1735年頃）には、本櫓（主要な芝居小屋）の他に、事実上従属する控櫓（代行興行を行う芝居小屋）がつくようになりました。本櫓が経営難に陥ると、控櫓が興行権を代行する制度が確立しました。

三座の立地と発展

江戸初期の芝居小屋は、中橋南地（現在の京橋付近）に建てられた猿若座（後に中村座と改称）を皮切りに、堺町・葺屋町（現在の日本橋人形町）などに集まりました。この一帯は、芝居茶屋や役者などの住居がひしめき合う一大芝居町を形成しました。

一方、木挽町（現在の銀座）にも山村座、河原崎座、森田座が建ち、「木挽町三座」と呼ばれ、堺町・葺屋町に匹敵する芝居町となりました。しかし、河原崎座が廃座となり、山村座も廃座となると、森田座のみが残りました。その後、森田座も経営難に陥り休座しますが、控櫓が興行権を代行するようになりました。

本櫓と控櫓：代行興行の制度

本櫓が経営破綻すると、控櫓が代行興行を行うという制度が確立しました。控櫓は、本櫓が経営を立て直すまでの間、興行権を代行し、その後、本櫓に興行権を返還する仕組みです。この制度は、歌舞伎興行の継続に大きく貢献しました。

しかし、時代が下るにつれ、代行興行は負債逃れの手法として利用されるようになり、本櫓と控櫓の関係は複雑化していきました。

猿若町への移転と明治時代

天保12年（1841年）、中村座と市村座が火災で焼失したことをきっかけに、三座は浅草聖天町（現在の台東区浅草）に移転し、猿若町と改名されました。この移転は、天保の改革による風紀粛正政策の一環でした。

明治時代になると、猿若町三座は東京府の政策により、他所へ移転を余儀なくされました。中村座、市村座、森田座（または河原崎座）はそれぞれ別の場所に新劇場を建設し、江戸三座は新たな時代へと歩み出しました。

明治以降の歌舞伎界と江戸三座の終焉

明治時代には、新富座、歌舞伎座などが建設され、歌舞伎界は新たな発展を遂げました。江戸三座も新劇場を建設して近代化を図りましたが、関東大震災や火災により、最終的に廃座となりました。

江戸三座は、300年以上にわたり歌舞伎興行の中核を担い、日本の伝統芸能である歌舞伎の発展に大きく貢献しました。その歴史は、日本の演劇史において重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

もう一度検索