池田長準

池田長準：岡山藩家老から男爵へ、そして国宝を献上した生涯

池田長準は、1853年、岡山藩家老池田長常の次男として誕生しました。父の後を継ぎ、家督を相続すると、名門閑谷学校で山田方谷に師事し、陽明学を学びました。その後、藩政改革にも貢献し、英田郡長や磐梨郡長などの要職を歴任。さらに、金融機関の役員も務めるなど、多方面で活躍しました。

明治33年（1900年）、長準は男爵に叙せられ、華族の仲間入りを果たします。これは長年の功績と、藩政における貢献が認められた結果と言えるでしょう。

しかし、その華麗な経歴とは裏腹に、長準の生涯は悲劇的な最期を迎えました。大正2年（1913年）、妹婿の訃報を聞き、電話をしようとして商業会議所に向かう途中、誤って井戸に転落し、亡くなりました。享年61歳でした。

池田家家督は、養子である池田長康（元岡山県令、貴族院議員千坂高雅の六男）が継承しました。長準の妹は元旗本で賀陽郡長を務めた花房職居と結婚しており、その縁故も彼の生涯に彩りを添えています。

長準は書画骨董の収集家としても知られていました。特に禅僧白隠慧鶴を深く敬愛し、その書跡を収集。自身を「百陰居士」と号して、そのコレクションを誇りとしていました。

彼の所有物の中で最も有名なのは、岩佐又兵衛作と伝えられる国宝「小栗判官絵巻」です。日清戦争中、広島大本営に滞在していた明治天皇がこの絵巻を鑑賞し、大変気に入ったことから、長準はそれを皇室に献上しました。現在、この絵巻は宮内庁三の丸尚蔵館に収蔵されています。

「小栗判官絵巻」が池田家に伝わった経緯は不明な点が多く、歴史家の間でも議論が続いています。辻惟雄氏は、千姫が注文主で、岡山藩主池田光政の娘である勝姫を慰めるために制作されたという仮説を立てています。一方、黒田日出男氏は、この絵巻が津山藩松平家に伝来していたものが、岡山県内に流出したものを長準が手に入れたのではないかと推測しています。

池田長準は、藩政に貢献した家老として、金融界で活躍した実業家として、そして書画骨董を愛した文化人として、多様な顔を持つ人物でした。その生涯は、激動の時代を生きた、ある地方名家の興亡と、国宝をめぐる歴史の謎を同時に映し出しています。彼の死後、家督を継いだ養子、池田長康もまた、政治の世界で活躍した人物であり、池田家の歴史はその後も続いていきます。しかし、長準の没年は、一つの時代の終わり、そして新たな時代の始まりを告げるものだったと言えるでしょう。

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