沙羅 (歌曲集)

歌曲集『沙羅』について

『沙羅』（さら）は、清水重道が作詩、信時潔が作曲した歌曲集です。この作品は、日本の歌曲の中でも特に重要な位置を占めており、その美しい旋律と詩的な歌詞は多くの人々を魅了し続けています。

成立の背景

1935年（昭和10年）に清水重道が詩を作り、翌1936年（昭和11年）に信時潔が作曲しました。初演は1943年（昭和18年）9月、「木下保第10回独唱会・信時潔歌曲の夕」にて、木下保の歌唱と水谷達夫のピアノ伴奏によって行われました。この初演後、木下と水谷によってコロンビアレコードへの録音が行われ、このレコードは1943年度の文部大臣賞を受賞しました。

作品の評価

木下保は、『沙羅』を「信時潔の歌曲の中でも傑出した一連の独唱曲集」と評し、「日本古来から現代に至る純粋な日本的香り豊かな、そして気品ある作品」と高く評価しました。彼はまた、「編曲であっても、この作品が、戦前戦後を通じて、いちばん心にひびく作品」と述べています。

木下保は、自ら提唱する“やまとことば”を駆使し、慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団などを指揮して、この作品を繰り返し演奏しました。

編曲について

『沙羅』は、当初、福永陽一郎によって男声合唱に編曲され、木下保の指揮で演奏されました。その後、木下自身が「ここで一度沙羅の素朴さにもどり、一切の飾り気を無視した中からその魂を浮き立たせようという主旨」で再編曲を行いました。現在では、女声合唱、男声合唱、混声合唱の編曲版が出版されており、幅広い層に親しまれています。福永版は出版されていません。

曲目

『沙羅』は以下の八曲から構成されています。

1. 丹澤
2. あづまやの
3. 北秋の
4. 沙羅
5. 鴉
6. 行々子
7. 占ふと
8. ゆめ

楽譜情報

歌曲

沙羅 清水重道 作詞、信時潔 曲 共益社 1936年
信時潔独唱曲集 春秋社 2005/7/23 ISBN 9784393924143

合唱

女声合唱組曲 沙羅 清水重道作詩／信時潔作曲／福永陽一郎編曲 カワイ楽譜
女声合唱組曲 沙羅 清水重道作詩／信時潔作曲／木下保編曲 音楽之友社 2010/4/7 ISBN 9784276554986
女声合唱のための 沙羅 清水重道作詩／信時潔作曲／永友博信編曲 Edition TOMS JAPAN
男声合唱組曲 沙羅：改訂新版 清水重道作詩／信時潔作曲／木下保編曲 音楽之友社 2012/7/26 ISBN 9784276548381
混声合唱組曲 沙羅 清水重道作詩／信時潔作曲／木下保編曲 音楽之友社 2005/11/17 ISBN 9784276544901
混声合唱組曲 沙羅 清水重道作詩／信時潔作曲／中西覚編曲 マザーアース 2019/6/15 ISMN 9790650034197

録音情報

歌曲

木下保の藝術－SP音源復刻盤－ 木下記念日本歌曲研究会／木下記念スタジオ（限定頒布）※上記の文部大臣賞受賞レコードの復刻
Auf Flügeln des Gesanges／歌の翼に 畑中良輔（ビクターエンタテインメント）VICC-60138
信時潔作品集 畑中良輔（ビクターエンタテインメント）KCDK-1206

合唱

木下保の藝術 －髙田三郎、信時潔合唱作品集－ 木下保指揮 日本女子大合唱団、慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団 フォンテック
* 木下保指導による 混声合唱曲集 沙羅 木下保指揮 東京放送合唱団 フォンテック

エピソード

作曲家の團伊玖磨は、『沙羅』全曲初演を聴いた際、「日本歌曲に開眼したのは僕だけでなく、何人もの作曲家が、そして声楽家がたった一晩で開眼し、その各々の道を辿りながら歌曲へのグラナド・アド・パルナスム（クレメンティーのピアノ教則本“パルナスの山への階段”の意）を昇り始めたのである。」と述べています。

また、畑中良輔は、木下保の歌唱による『沙羅』の全曲収録後、ラフテスト盤をいち早く信時潔に聴かせたいという木下の要望で、自らポータブル蓄音機を背負って信時宅まで届けたというエピソードを語っています。

『沙羅』は、その美しい旋律と、日本的な情感豊かな歌詞によって、多くの人々に感動を与え続けています。この作品は、日本の歌曲史において重要な位置を占めるだけでなく、音楽を愛するすべての人々にとって、かけがえのない宝物と言えるでしょう。

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