河津暹

河津暹（かわづ すすむ）：日本の経済学・社会政策学の先駆者

河津暹は、1875年（明治8年）1月20日に東京府で生まれ、1943年（昭和18年）3月28日に69歳で没した日本の経済学者、社会政策学者です。東京帝国大学名誉教授の称号を持ち、法学博士でもありました。名前は「せん」とも読まれます。

生い立ちと学歴

河津暹は、父・河津祐之の長男として生まれました。伯父・河津祐賢の家督を継ぎ、旧制二高（現在の東北大学）を経て、1899年（明治32年）7月に東京帝国大学法科大学（現在の東京大学法学部）政治学科を首席で卒業しました。彼は第一期「銀時計組」の一員でした。その後、東京帝国大学大学院に進学し、経済学を専攻しました。

1900年6月、河津はヨーロッパ（イギリス、ドイツ）への留学に出発。留学中の1901年3月に東京帝大法科大学助教授に任命されました。1904年7月に帰国後、1907年5月には教授に昇任。法科大学に所属していた経済学第四講座を担当し、経済原論、経済史、商業政策、殖民政策、交通政策などを講じました。同年8月には法学博士の学位を取得しました。

学術活動

河津暹は、社会政策学会の中心メンバーとして活躍しました。1912年（大正元年）8月から翌1913年8月にかけて再び欧米に出張し、帰国後の9月には経済学第三講座の担当となりました。1919年4月、東京帝大に経済学部が新設されると、同学部の教授となり、1924年2月以降は専修大学で法学部長を兼任しました（1934年9月まで）。また、1926年5月から1929年5月にかけて東京帝大経済学部長を務めました。さらに、農商務省商務局嘱託や早稲田大学講師も務めました。

1935年3月、河津暹は東京帝大を定年退官し、同年6月に名誉教授の称号を得ました。10月には帝国学士院会員となりました。その後、内務省社会局参与や国家倶楽部理事も務め、正三位勲二等を叙勲されました。

業績と学風

河津暹は、日本の社会政策学派（ドイツの新歴史学派＝講壇社会主義派）の最後の世代に属する人物とされています。社会政策学派の経済学を基盤としつつ、価値論においては限界効用説を採用していました。そのため、1930年代にマルクス経済学が主流となった日本では、時代遅れの「旧世代」の学者とみなされることもありました。

河津の授業は、毎年同じ内容であったとされ、教科書として用いられた著書『経済原論』は「常識の書物」と評されていました。学生の間では、彼の講義があらかじめ決められた内容で進行することが知られており、教科書に書き込まれた先輩のコメント通りに、講義中に洒落を言ったり咳をしたりすることもあったという逸話が残っています。

著書一覧

以下は、河津暹の主な著書です。

『本邦燐寸及砂糖論』（1910年）
『経済私言』（1912年）
『国民経済の組織及発達』（1918年）
『経済思想の変遷と経済政策の根本義』（1921年）
『植民政策綱要』（1923年）
『経済学講義要綱』（1924年）
『経済学』（1924年）
『経済史』（1924年）
『商業政策綱要』（1924年）
『経済政策綱要』（1926年）
『商業政策』（1929年）
『中小農工商問題』（1930年）
『経済原論』（1931年）
『経済政策総論』（1936年）
『農業と農業政策』（1936年）
『工業と工業政策』（1937年）
『内国商業』（1938年）
『外国貿易』（1938年）
『社会問題と社会政策』（1938年）
『交通機関と交通政策』（1939年）
『金融市場と金融政策』（1940年）
『植民と植民政策』（1940年）
『富の分配：所得の構成』（1941年）
『財政学』（1908年頃）
『物価問題に就て』（1925年）
『貨幣論』

エピソード

河津暹の名前の「暹」は難読であり、当時シャム（現在のタイ）の略称として使われていたことから、学生たちはしばしば彼を「シャム」と呼んでいました。

また、河津が学部長を務めていた時期の東大経済学部は、内外ともに多くの問題を抱えており、その在任中に助教授であった大森義太郎が辞職するという事件も発生しました。

家族と親族

河津暹の父・祐之は逓信省次官を務めた官僚政治家でした。祖父・祐邦は幕末に江戸幕府の勘定奉行や外国事務総裁を務めた幕臣です。また、曽我兄弟の仇討ちで討たれた工藤祐経を祖先に持ちます。

妻の英芝は神田乃武（神田孝平の養子）の長女であり、高木八尺は義弟にあたります。三男の祐元は工学博士・東京大学工学部教授となりました。二女の梅子の夫・利根川武は、利根川進の父方伯父です。異母弟の益雄は東大法科卒で三井物産に勤務し、その妻は安達峰一郎の二女でした。

河津暹は、日本の経済学、社会政策学の発展に大きく貢献した学者であり、その功績は後世に語り継がれています。

参考文献

早坂忠 「河津暹」 『日本人名大事典 現代』 平凡社、1979年
「河津暹」 秦郁彦 『日本近現代人物履歴大事典』 東京大学出版会、2004年
* 竹内洋 『大学という病：東大紛擾と教授群像』 中公叢書、2001年

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