河豚の卵巣の糠漬け

河豚の卵巣の糠漬け：毒を旨味に変える石川の伝統食

河豚の卵巣の糠漬けは、石川県に伝わる独特の郷土料理です。通常、猛毒のテトロドトキシンを含むフグの卵巣は食用には適しませんが、石川県では3年にも及ぶ塩漬けと糠漬けの工程を経ることで、毒性を除去し、珍味として食されています。

製法の詳細

1. 塩漬け：5～6月に獲れたゴマフグの卵巣を、約30%の塩とともに1年以上漬け込みます。この工程で卵巣から水分が抜け、身が締まります。
2. 糠漬け：塩漬け後、水洗いした卵巣を米糠、麹、唐辛子とともに樽に漬け込みます。イワシの魚醤（いしる）を注ぎ、重石で蓋をして空気に触れないようにします。
3. 毒性検査：半年～1年後、ハツカネズミによる毒性検査を行い、安全性を確認します。基準値は1グラムあたり10マウスユニット以下と定められています。

除毒のメカニズム

長期間の塩漬けと糠漬けによってテトロドトキシンが減少することはわかっていますが、詳しいメカニズムは未だ解明されていません。塩析効果による毒素の希釈が有力な説ですが、糠に含まれる酵素による分解説は否定されています。

その他の製法

石川県以外でも、佐渡島では酒粕漬け、福井県高浜町では粕漬けとしてフグの卵巣が利用されています。高浜町では、サバのへしこ作りの副産物としてフグの卵巣を漬けることで毒が消えることが経験的に知られており、「福のこ」として親しまれています。

製造の現状と課題

河豚の卵巣の糠漬け製造が許可されているのは、日本では石川県の21軒のみ。厳しい基準をクリアした製品のみが市場に出回ります。近年、製造業者は減少傾向にあり、伝統の味を守り続けるための努力が続けられています。

食中毒のリスクと安全性

過去には無免許業者による不適切な製造が原因で食中毒が発生した例もありますが、正規の製造業者が手がけた製品による食中毒は報告されていません。石川県予防医学協会による厳格な毒性検査を経て出荷されるため、安心して食することができます。

味わい方

塩気が強いため、表面の糠を軽く落とし、軽く炙って食べるのが一般的です。濃厚な味わいは、ご飯のお供やお酒の肴として最適。お茶漬けやパスタの味付けなど、様々な料理にも活用できます。

文化庁100年フード認定

白山市の「美川のふぐの子糠漬」は、2022年に文化庁の100年フードに認定されました。これは、地域に根ざした食文化を未来に継承していくための取り組みの一環です。

河豚の卵巣の糠漬けは、単なる珍味としてだけでなく、石川県の歴史と文化を象徴する貴重な食文化遺産と言えるでしょう。

参考情報

3年かけて猛毒を消す石川伝統の保存食「フグの卵巣のぬか漬け」（nippon.com） - YouTube
“奇跡の毒抜き 〜ふぐの卵巣の糠漬けに見るいしかわの発酵文化〜” - 石川新情報書府

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