河辺家 (大中臣氏)

河辺家（かわべけ）

河辺家は、伊勢神宮の大宮司を世襲した家柄で、大中臣氏の一門であり、男爵の爵位を持つ社家でした。

概要

河辺家のルーツは、中臣氏一門の祖である中臣御食子の子、中臣垂目の系統にあります。鎌倉時代、大中臣永智の子である通能が伊勢河辺に居住し、「河辺」を名乗ったのが始まりです。室町時代以降は、代々神宮大宮司を世襲し、家業は神祇道、通字は「長」を用いていました。

江戸時代に入り、承応2年（1653年）に神宮祭主の藤波友忠が勅勘を受け免職となると、同年9月10日に河辺定長が後継の祭主に就任しました。これに伴い、同日、河辺精長が大宮司となり、以後、大宮司の世襲は精長の系統へと移りました。

祭主職をめぐって

後継者のいない定長が病に倒れ、大宮司の職務を遂行できなくなると、定長は二条家諸大夫の北小路俊臣の次男である兼長を養子に迎え、河辺姓を名乗らせました。しかし、これに対し、大宮司の精長は「本来、祭主職は世襲制ではないこと、世襲のために異姓の者を養子にすることは神宮の神慮に適わないこと」を主張し異議を唱えました。この訴えは受け入れられませんでしたが、精長は訴え続けました。その間、定長の病状が悪化し、明暦2年（1656年）11月6日に亡くなってしまいます。定長が亡くなった後も、後継の祭主はなかなか決まらず、兼長も自身の正当性を訴えましたが、事態は膠着状態に陥りました。最終的には、父の勅勘に連座して近江に流されていた藤波景忠が祭主に任じられることとなりました。

祭主職の条件として、大中臣氏であること、そしてその中でも特定の二つの家柄であることが重視されていました。他の家柄の者を任じれば不吉なことが起こるとも言われていましたが、この時期には後者の条件が軽視され、友忠の後継として定長が任じられました。しかし、定長の死後、3年も後継の祭主が決まらない事態となり、朝廷もこの条件を改めて重視するようになったのです。これに対し、精長は自身の子である故長を後継の祭主に推薦し、再び反発しました。しかし、朝廷はすでに決定した事項としてこれを退け、祭主は藤波家の世襲となりました。河辺家の者が再び祭主となることはなく、大宮司の世襲に落ち着きました。

藤波家との関係

前述のように、藤波家の者が祭主に再任することに強く反発した河辺家でしたが、精長の次男である長春が早世し、その跡を継いだ精長の三男である房長には後継ぎがおらず、祭主藤波景忠の子を二人も養子に迎えました。しかし、その二人も早世してしまい、大中臣一族の中から春日社神主の中西時資の子である千長を養子に迎えました。しかし、彼も早くに亡くなり、景忠の孫にあたる長矩を千長の娘と結婚させてからは、この長矩の系統が河辺家を継いでいくことになりました。血統で見れば、河辺家の血筋は藤波家に移ったことになります。

長祥には実子が無く、藤波寛忠の子で澤久量の養子となった澤量行、その子である長福が養子に入りました。長福の跡は長祥の弟である都盛が継ぎましたが、彼にも後継ぎがおらず、同じく寛忠の子で三室戸能光の養子となった三室戸陳光の、その子である長量、教長が相次いで養子に入りました。教長が隠居すると、長量の妻であった英子が家督を継承し当主となりました。英子の跡は、万里小路正房に嫁いだ寛忠の娘・義子の実の孫である博長が継承しました。ここで血統は万里小路家に移りますが、女系を介すると藤波家にも繋がることができます。

男爵家として

明治維新を迎え、制度改革によって神官の世襲が廃止されると、大宮司もその一つとなりました。その後、当時の当主であった教長は明治5年（1872年）5月19日に華族に列せられ、明治11年（1878年）10月5日に隠居しました。同日家督を継いだのは、先代にして実の兄の、その妻である英子でした。

女戸主となった英子の跡を継いだのは、前述の通り博長でした。明治17年（1884年）5月23日、博長が家督を継承し、同年7月8日、華族令の施行に伴い男爵に叙されました。神宮に奉職することはありませんでしたが、神祇道の家としての名残はあり、博長は亀戸神社の社司を務め、子の三郎も賀茂御祖神社宮司や安房神社の責任役員を務めました。

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