河野通有

河野通有：元寇で活躍した伊予の武将

河野通有（かわの みちあり）は、鎌倉時代中期に伊予国（現在の愛媛県）で活躍した武将であり、河野氏の当主です。特に元寇（蒙古襲来）における活躍は特筆すべきもので、伊予水軍を率いて元軍と勇敢に戦いました。

生い立ちと家督争い

河野氏は、承久の乱で大きな打撃を受けましたが、河野通久が北条時政の娘を母としていたことから命を救われ、家名を継承しました。通有は、その通久の孫として建長2年（1250年）に誕生しました。

通有の父・通継には、通時という兄がいましたが、通久の側室との関係を疑われ義絶されたため、通継が後継者となりました。しかし、通時も無実を訴え、通継・通有父子と惣領の地位を巡って争いました。最終的には鎌倉幕府の仲介により、通有と通時は和解しました。この家督争いは、元寇に対する危機感が高まる中で、両者の対立を緩和させる効果があったと見られています。

通有は、伊予国風早郡善応寺の双子山城に拠点を置き、六波羅探題の命を受けて伊予国の海上警備を担いました。

元寇での活躍

文永の役の後、通有は再度の襲来に備え、北九州に出陣しました。

弘安の役では、通有率いる伊予水軍は博多の海岸に陣を敷き、石築地（元寇防塁）の海側の砂浜に戦船を並べて元軍を迎え撃ちました。この勇猛な構えは「河野の後築地」と呼ばれ、島津氏をはじめとする九州の武将たちから一目置かれる存在となりました。

元軍は志賀島を占領し、そこを停泊地としましたが、通有は伯父の通時とともに元軍船を攻撃しました。通時はこの戦いで戦死しましたが、通有は石弓で負傷しながらも、元船に乗り込んで元兵を斬り、元軍の将を生け捕るという武勲を挙げました。

戦後の恩賞と河野氏の復興

元寇での活躍により、通有は肥前国神崎荘小崎郷や伊予国山崎荘などの恩賞を得て、失われていた河野氏の旧領を回復しました。これにより、通有は河野氏中興の祖とも呼ばれています。

また、『予章記』によれば、肥後国下久具村も恩賞地として賜ったとされています。

その後の動向と死没

河野氏の系譜では、通有は応長元年（1311年）に死去したとされています。しかし、それから10年後の元応3年（1321年）に、六波羅探題の大仏維貞から伊予の海上警備を命じられた「河野対馬前司」を通有とみる説もあり、この頃まで存命していた可能性も指摘されています。

通有の家督は、嫡男の八郎通忠ではなく弟の九郎通盛が継承しました。この背景には、通盛の生母である河野通久の娘（通有の叔母）が、家督継承を強引に推し進めたことが関係していると考えられています。彼女は、通盛を後継者とする通有の遺言を読み上げ、通忠の妨害を退けたとされています。このことから、通有の死後、未亡人となった通久の娘が自身の立場を利用して通盛を後継者に立て、それを巡って河野氏内部で内紛が生じたという説もあります。

大正5年（1916年）、通有は正五位を追贈されました。

蒙古襲来絵詞と河野家

竹崎季長が描かせた『蒙古襲来絵詞』には、季長が負傷した通有を見舞う様子が描かれています。絵巻の注釈には、河野家では合戦が終結するまで烏帽子を着用しないこと、通有の直垂が先祖の河野通信が源氏に味方した時に着用していたものであることなどが記されています。

また、絵巻には、通有の嫡子である河野八郎が縁側に座り、庭には通有の旗指しが控えている様子が描かれています。奥の妻戸は、本来なかった場所を絵師が誤って描いたものだと注釈されています。

関連作品

通有を題材とした作品には、以下のものがあります。

映画『かくて神風は吹く』（1944年、演：阪東妻三郎）
映画『日蓮と蒙古大襲来』（1958年、演：島田竜三）
NHK大河ドラマ『北条時宗』（2001年、演：奈佐健臣）
小説『海を破る者』（2024年、作：今村翔吾）

参考文献

石野弥栄「鎌倉期における河野氏の動向」（『国学院高等学校紀要』19輯、1984年）
石野弥栄「鎌倉～南北朝期河野氏の遠隔地所領支配」『中世河野氏権力の形成と展開』（戎光祥出版、2015年）

関連項目

* 三島神社（東京都台東区）

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