河野通信

河野通信（かわの みちのぶ）は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて伊予国で活躍した武将であり、伊予水軍を率いたことで知られています。河野通清の子として生まれ、一遍の祖父にあたります。

生涯

治承4年（1180年）に源頼朝が平氏打倒の兵を挙げると、通信は父・通清とともに、本拠地の伊予国風早郡高縄山城（現在の愛媛県松山市）で平維盛の目代を追放し、源氏方に呼応しました。しかし、平氏方の総攻撃により、父・通清は討ち死にしてしまいます。その後、通信は高縄半島でゲリラ戦を展開し、備後国の沼賀西寂、阿波国の田口成直を撃破して、伊予における主導権を握りました。

文治元年（1185年）2月、源義経が平氏追討のため四国へ下向すると、通信は軍船を率いて屋島へ赴き、源氏軍に合流しました。不在中に田口教能の襲撃を受けるものの、志度合戦で義経に軍船を献上し、源氏方として戦います。壇ノ浦の戦いでは、通信率いる軍船が中堅として活躍し、源氏の勝利に貢献しました。戦後、通信は鎌倉幕府の御家人となり、守護職には任じられなかったものの、伊予国内の御家人を統括する強い権限を認められました。

文治5年（1189年）の奥州合戦にも従軍し、『吾妻鏡』には、通信が陣中で食事の際に土器を用いたことが珍しいと話題になったことが記されています。これは、同族の大祝氏と同様に、河野氏が国造の末裔としての斎戒の習慣を受け継いでいたことを示唆しています。頼朝の死後、通信は梶原景時の変にも加わっています。また、北条時政に気に入られ、その娘を妻に迎えたと伝えられています。

子の河野通政は西面武士として院庁に仕えていましたが、通信は承久3年（1221年）の承久の乱で後鳥羽上皇方につきます。しかし、朝廷方が敗北すると、通政とともに領地へ戻り、高縄山城に籠もって幕府軍に抵抗しました。翌年、幕府軍に居城を攻められ降伏し、捕虜として陸奥国江刺へ流罪となりました。通政は斬首され、所領の多くは没収されました。通信が上皇方についた背景には、妻である北条氏（時政の娘）との不仲、通政が在京武士であったことなどが挙げられていますが、近年の研究では、通政が院庁で仕えていたことから後鳥羽上皇との繋がりがあったとする説、奥州合戦時に源義経との密接な関係を疑われたとする説、守護宇都宮氏や知行国主西園寺家との対立説、牧氏事件への関与による幕府からの冷遇説などが提唱されています。

配流後、通信は出家したと伝えられ、貞応2年（1223年）に江刺郡稲瀬（現在の岩手県北上市稲瀬町）にある国見山極楽寺で68歳で死去しました。大正5年（1916年）には従五位が追贈されています。墓所は現在も稲瀬町水越地区に聖塚として残っており、孫の一遍が全国を遊行した様子を描いた絵巻物「一遍上人絵伝」に、弘安3年（1280年）に祖父の墓で供養を行う様子が描かれていることが、この墓所発見の手がかりとなりました。

河野本家は、幕府方についた子・河野通久によって辛うじて存続しました。また、通政の遺児・通行も配流後に赦免されて子孫を伝え、通久の子である別府通広（一遍の父）や庶子と伝えられる池内公通も許されており、彼らによって河野一族は存続しましたが、伊予国内での影響力は低下することとなりました。

通信の生涯は、源平合戦、鎌倉幕府の成立、承久の乱という激動の時代を生き抜いた武将の姿を示すとともに、その後の河野氏の命運を大きく左右するものであったと言えるでしょう。

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