波田堰

波田堰（はたせぎ）

波田堰は、長野県松本市波田地区を流れる灌漑用の人工河川で、1877年（明治10年）頃に完成しました。梓川から取水し、上海渡分水工で分岐した水路の一つであり、波田地区の約200ヘクタールの水田を潤しています。

概要

一般的に「堰」とは、河川や湖沼に設けられ、水をせき止めて用水を取り入れる構造物、または水路の水位・流量を調節する構造物を指します。波田堰もその一つで、取水した水を流すための人工的な用水路です。長野県の方言では、用水路を「せんげ」と呼びますが、これは「せぎ」が転訛したものです。

波田地区には、波田堰の他に和田[[堰]]と黒川堰の2つの堰があります。これらの堰は、それぞれ異なる高さで梓川から取水しており、波田堰は下から3つめの河岸段丘を掘り通す高さに造られています。黒川堰は山中を通り、山麓を回るように作られています。

完成までの歴史

江戸時代には、新しい堰を作るには藩の許可が必要で、既存の水利権者の承諾も必要でした。波田堰の計画者である波多腰六左衛門親子は、12の堰関係者の承諾を得ることに苦労しました。

1789年から1801年の間、波多腰六左衛門は、有志とともに梓川の12の堰関係者58か村に新堰開鑿の承諾を求めましたが、小規模な堰しか認められず、収支が合わないため起工を断念しました。

1848年から1854年の間には、木曽谷の笹川の水を奈川へ落とす計画を立てましたが、松本藩は尾張藩との境論を恐れて許可しませんでした。1860年には、黒川谷の沢水を利用する計画も検討されましたが、水量が少なく断念されました。

1869年、波多腰六左衛門の孫である波多腰六左は、百瀬精一郎とともに、洪水の被害を受けた田の分の水を「換水」する手法で新堰建設の許可を得ました。1871年に松本藩が工事を開始しましたが、廃藩置県により工事は筑摩県に移管されました。しかし、県による工事は不十分で、1874年に工事は上波多村と下波多村に払い下げられました。

その後、波多腰六左が資金を出し、完成後の水代徴収を条件に工事が進められました。1878年には堰幅が広げられ、堰尾が延長され、水田の開墾も進みました。11の分け堰には水門が設けられ、水田面積に応じて平等に水量が配分されるようになりました。

完成以後

1879年には、黒川堰との間で土砂流入問題が発生しましたが、最終的に合意に至りました。1883年には、上波多・下波多・三溝の3村が合併して波多村となり、三溝耕地が波田堰に参加しました。また、水神社が設立されました。

1884年、波多腰六左は波田堰を戸長役場に引き継ぎました。1921年には波田堰水利組合が設立され、1933年には波多堰耕地整理組合が設立され、県費補助による改修工事が行われました。これにより、灌漑水が末端まで届くようになり、水田面積も増加しました。

1951年には、土地改良法の制定に伴い、波田土地改良区が設立されました。1968年には県営圃場整備事業が開始され、現在の農道や耕地、コンクリート化された水路が完成しました。しかし、この整備により水路の多様性が失われたという指摘もあります。

1971年には東京電力梓川ダムが完成し、波田堰の取水口は上海渡分水口に移されました。

堰口

波田堰の旧取水口は、1871年に「小川原」に作られましたが、1874年に「スコボシ」をトンネルで抜けて梓川本流に移されました。この堰口は、1949年に梓川頭首工が完成するまで使用され、現在では上海渡分水口から取水されています。梓川頭首工から取水された水は、畑地灌漑にも利用され、総灌漑面積は約1万1000ヘクタールに及びます。

現在の様子

波田堰は、1950年代後半に幹線部分がコンクリート化されました。以前は冬季には水が流れていませんでしたが、現在では冬季でも通水しています。かつて広大な水田地帯が広がっていましたが、1970年代から休耕・転作が進み、転作地が増加しました。現在でも水神社から下原集落までは広大な耕作地帯が広がっていますが、信濃学園の東側一帯では宅地化が進んでいます。

波田堰土地改良区

波田堰土地改良区の事務局は市役所波田支所内にあり、専任職員と用水管理スタッフがいます。用水を公平に分配する「水配人」という制度がありましたが、現在では水管理の役割が大きくなっています。波田堰の支線水路は、1968年からの県営圃場整備事業により整備されました。土地改良区の事業予算は、一般会計の他に積立金などがあります。組合員に対する賦課金として、経常賦課金、水利管理費賦課金などがあります。

用水路としての「堰」

松本盆地では、梓川以南よりも以北に堰が多く、安曇野は扇状地であるため地下に水がしみ込みやすく、堰の開削が水田開発に重要でした。波田堰を立案した時には、すでに下流に12の堰があり、それらの堰の承認を得る必要がありました。

松本盆地には、榑木堰、中萱堰、鳥羽堰など、多くの堰が存在します。波田地区内には、波田堰の他に和田[[堰]]と黒川堰があり、安曇野には拾ヶ堰、勘左衛門堰などがあります。松本盆地以外にも、塩沢堰や横堰など、用水路に「堰」の名称をつける事例が多くあります。

関連人物

波多腰六左（1839年 - 1900年）は、波田堰開削の功労者で、村の庄屋、戸長などを歴任しました。生家は国の登録有形文化財に登録されています。

参考文献

横山篤美『波田堰百年史』波田堰治績顕彰会、1975年5月
『中信平農業水利事業一般平面図』中信平土地改良区連合、2011年10月

外部リンク

* 東筑摩郡波田土地改良区

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