波羅提木叉

波羅提木叉（はらだいもくしゃ）

波羅提木叉（はらだいもくしゃ）は、仏教の出家者である比丘や比丘尼が守るべき戒律を記載した重要な典籍です。サンスクリット語で「プラーティモークシャ」と呼ばれ、パーリ語では「パーティモッカ」として知られています。この典籍は僧伽（そうぎゃ）の規則として機能し、出家者が道を歩むうえでのガイドラインとなります。

概要

波羅提木叉は、仏教の戒律の中でも中心的な位置を占めています。特に南伝の上座部仏教においては、パーリ語の仏典の一部として、経分別（suttavibhȧnga）、僧伽の運営に関する規則である犍度（khandhaka）、さらに附随の規則（parivāra）が追加され、「律蔵」（vinaya piṭaka）として知られています。このように、波羅提木叉は出家者にとって戒律の一環であり、なぜ「戒律」と一まとめに呼ばれるのかが理解できます。

波羅提木叉には比丘向けの227戒と、比丘尼向けの311戒があり、定期的に布薩（ぶさつ）という僧伽の集会で読み上げられ、各出家者がその規律に反していないかを確認します。

構成

波羅提木叉は内容に応じて以下の8つの種類に分類されます。

1. 波羅夷（はらい） - 僧団からの追放を伴う重大な罪。
2. 僧残（そうざん） - 波羅夷に次ぐ重罪で、一定期間僧団からの資格が剥奪されます。
3. 不定（ふじょう） - 女性と二人きりになることに関する罪。
4. 捨堕（しゃだ） - 禁止物の所持や不適切な方法で物品を得ること。
5. 波逸提（はいつだい） - 様々な好ましくない行為。
6. 提舎尼（だいしゃに） - 食物の授受に関する規則。
7. 衆学（しゅがく） - 服装や飲食、説法に関連する規則。
8. 滅諍（めつじょう） - 僧団内の紛争を解消するための規則。

大乗仏教での波羅提木叉の扱い

大乗仏教でも波羅提木叉の精神は大切にされてきました。しかし、比丘戒に加え、より厳格な菩薩戒や密教に由来する規則が追加されることが一般的です。大乗仏教では、これによりより高い徳を求める姿勢が強調されます。

たとえば、『梵網経』には、戒律を厳守しなければ、解脱を得ることはできないと明記されています。このような戒律が厳格であることは、大乗仏教の信者にとって重要な側面としています。

地域別の波羅提木叉の伝承

東アジア（中国・日本）

東アジアにおいても、波羅提木叉は様々な形で伝承されました。中国の北伝大乗仏教では、律典が段階的に伝来し、律宗が形成されました。この流れを経て、日本仏教にもその伝統が持ち込まれ、その後の教理の発展に影響を与えました。

日本の仏教界では、江戸時代以降、僧侶の戒律が薄れ、近代においては政府の施策により僧侶の生活が一般社会と一体化することが見られます。それに対抗するかのように戒律復興運動も起こりましたが、大規模な動きとはならなかったものの、現在では再び戒律重視の傾向が見られるようになっています。

チベット

チベット仏教では、波羅提木叉は根本説一切有部に源を持ち、今日でも実践が続けられています。しかし、インドからの伝来において、密教的要素が強く、戒律が軽視される場合もありました。その後、律の重要性が見直され、現在のチベット仏教においては波羅提木叉が尊重されるよう改善が図られています。

現代の波羅提木叉の解釈

現代においては、波羅提木叉の解釈は多様であり、伝承や学問によって異なる見解が存在します。これにより、それぞれの宗派や信仰が独自の道を歩むこととなり、波羅提木叉が持つ意義が変わっています。

このように、波羅提木叉は仏教の成り立ちや出家者の生活において重要な役割を果たしつづけており、その実践は今なお多くの僧侶や信者にとって大切な教えとなっています。

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