泣塔

泣塔（なきとう）

泣塔は、神奈川県鎌倉市寺分にひっそりと佇む宝篋印塔の通称です。旧国鉄大船工場（現JR東日本大船工場）の敷地脇に位置し、「陣出の泣塔」とも呼ばれています。その静寂な佇まいと、名前に込められた謂れが、訪れる人に深い印象を与えます。

概要

高さ203センチメートルの伊豆石でできた宝篋印塔は、関東地方独特の形式を持ち、整った形と珍しい装飾が特徴です。塔の背後にはやぐらがあり、朽ちた五輪塔が静かに佇んでいます。

泣塔は、その美術的価値から、1933年に重要美術品に認定されました。その後、文化財保護法に基づき、認定効力が継続。1971年には鎌倉市指定有形文化財にも指定され、地域の大切な文化遺産として保護されています。2019年の豪雨でやぐらの崖が崩れたため、現在は安全確保のためフェンス内への立ち入りが制限されています。

名称の由来

「泣塔」という名称の由来は定かではありません。有力な説としては、塔の後ろのやぐらに吹く風の音が泣き声のように聞こえるため、または「無き人（無縁仏）」を弔う塔が訛った、などの説があります。青蓮寺に移設された際に夜な夜なすすり泣く声が聞こえたため、という伝承もありますが、記録がなく詳細は不明です。

歴史

基壇部に刻まれた銘文から、泣塔は南北朝時代の文和5年（1356年）に造立されたと推測されています。建立の正確な理由は不明ですが、近くに新田義貞軍と鎌倉幕府軍が激戦を繰り広げた洲崎古戦場があったことから、戦死者を弔うために周辺住民が建てたのではないかと考えられています。銘文によれば、建立は二十三回忌の追善供養の際に行われたようです。

建立後、泣塔にまつわる不吉な噂が広まりました。土地を所有すると貧乏になる、幽霊に出会う、祟りがあるなどと言われ、開発を妨げるほどの影響力がありました。

1943年、周辺地域が海軍工廠の建設予定地となり、泣塔も取り壊される予定でしたが、住民の要望や工事中の事故が相次いだことから、当局は泣塔の破却を断念。泣塔のある一角は、奇跡的に旧態地形のまま保存されることになりました。

戦後、工廠の跡地は国鉄の工場となり、泣塔は引き続き保存され、毎年供養が行われました。1966年には、工場長の提案で周囲に杉の苗木が植えられ、現在に至ります。

文化財情報

重要美術品認定
認定名称（現在）：深沢文和五年銘宝篋印塔
認定日：1933年8月23日
鎌倉市指定有形文化財
指定名称：石造 宝篋印塔（文和五年銘）
指定日：1971年9月11日

拝観について

以前はJRの許可が必要でしたが、現在は鎌倉市が管理しており、市役所で鍵を借りれば拝観できます。また、月1回行われる「鎌倉泣塔クラブ」の清掃活動に参加すれば、その際に拝観が可能です。現在は豪雨の影響で、フェンスの外からの参拝となっています。

関連項目

宝篋印塔
夜泣き石

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