泰安郡

泰安郡（テアンぐん）

韓国忠清南道の西部に位置する泰安郡は、朝鮮半島から黄海へと突き出す泰安半島の大部分を占める行政区域です。その地理的特徴から、北、西、南の三方向を黄海に囲まれ、東側は広大な干潟が広がる浅水湾に面しています。大田広域市からは北西に約181km、首都ソウルからは南西に約174kmの距離にあり、車で約1時間半のアクセス圏内に位置しています。

地勢と自然環境

泰安郡の海岸線は複雑に入り組んだリアス式海岸を形成しており、その総延長は約530.8kmにも及びます。沖合には大小合わせて130もの島々が点在しており、豊かな海の景観を生み出しています。中でも、半島の最南端に位置する安眠島（アンミョンド）は、面積約118平方kmを誇り、韓国国内で6番目に大きな島として知られています。安眠島にはマツを中心とした安眠島自然休養林があり、湿度の高い気候と石の少ない土壌が生み出す、こぶがなく真っ直ぐな樹形のマツは特に価値が高いとされています。泰安郡の沿岸地域は、透明度の高い海、多様な渡り鳥が飛来する広大な干潟、30ヶ所以上にも及ぶ美しい砂浜、そして海岸特有の豊かな植物相を持つ松林など、変化に富んだ自然環境に恵まれています。特に、長さ約3kmの白い砂浜が続く万里浦（マルリポ）海水浴場は、韓国を代表する海水浴場の一つとして多くの観光客が訪れます。

こうした優れた自然景観は高く評価され、1978年には一帯が泰安海岸国立公園に指定されました。この国立公園は、陸地面積326.57平方kmに加え、広大な沖合の海域や点在する130の島々を含み、250種を超える植物や多種多様な海鳥の貴重な生息地となっています。また、ラムサール条約にも登録されている斗雄湿地も郡内にあり、多様な水生生物の宝庫となっています。

産業と人々の暮らし

泰安郡の基幹産業は、農業、漁業、そして観光業です。内陸部の丘陵地帯は農地として開墾され、また海岸部には干潟を干拓した広大な農地が広がっています。沿岸漁業も盛んで、特にカニ漁は有名であり、カキやアワビなどの養殖も広く行われています。豊かな自然を活かした観光業も地域の重要な産業であり、美しいビーチでの海水浴、島々の間に沈む黄海の壮大な夕日、そして新鮮な海の幸などを求めて国内外から多くの人々が訪れます。安眠島も、その美しい自然と独特の景観により、主要な観光地の一つとなっています。

歴史の歩み

泰安半島周辺地域は、古くは百済時代に省大兮県と呼ばれていました。統一新羅時代の景徳王により蘇泰県と改称され、高麗時代の忠烈王の治世には泰安県となります。かつて、細長い泰安半島を船で通り抜け、租税用の穀物を円滑に輸送するための運河開削が試みられました。特に、半島を南北に結ぶ堀浦運河の計画は数世紀にわたる困難な工事の末に断念されますが、朝鮮王朝時代の17世紀には、半島の最先端部を東西に横断する運河が見事に完成しました。この運河の開通により、半島南端部は本土から切り離され、現在の安眠島が誕生したのです。

1895年には行政制度の変更に伴い泰安県は泰安郡となりますが、1914年には東隣の瑞山郡に合併され、一時的にその名を失います。しかし、地域の歴史と独自性が考慮され、1989年1月1日、旧瑞山郡の一部（泰安邑、安眠邑など2邑6面）が再び分離独立する形で、現在の泰安郡が再設置されました。なお、この行政区画変更の際に、安眠邑の一部地域が洪城郡へと編入されています。

近年の出来事と行政

2007年12月には、香港船籍のタンカーとクレーン運搬船の衝突事故により、約10,000トンもの原油が流出するという深刻な事故が発生し、豊かな漁場と自然環境に甚大な被害をもたらしました。この事故は地域経済、特に漁業に大きな打撃を与えましたが、その後の懸命な回復努力が続けられています。

現在の泰安郡は、泰安邑を郡庁所在地として2つの邑と6つの面から構成されています。警察や消防といった公共サービスも郡内に設置されています。2004年時点の総人口は63,764人でした。また、友好関係を築いている姉妹都市として、韓国国内ではソウル特別市瑞草区、国外では中華人民共和国山東省泰安市があります。

主な観光地・施設

万里浦海水浴場
安眠島自然休養林
泰安海岸国立公園
斗雄湿地 (ラムサール条約登録湿地)
安眠島
賈誼島
石島 (泰安郡)
ファチャン島
格列飛列島
泰安警察署
泰安消防署
瑞草区 (姉妹都市)
* 泰安市 (姉妹都市)

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