洞 (武家)

洞（うつろ）とは

洞（どう、うつろ）とは、室町時代後期から安土桃山時代にかけて、現在の東北地方及び関東地方の戦国大名に見られた、惣領である当主を中心に一族・家臣をまとめた擬似的要素のある族縁共同体のことです。他国の分国に相当し、「家中」と言い換えることも可能です。幕藩体制の確立に基づく近世大名への再編成の過程で消滅していったとされています。

概説

これらの地域では、一つの令制国に伝統的な武士団から台頭した複数の大名家が存在し、その領地関係も複雑に入り組んでいました。そのような状況下で、大名たちは一族、更には家臣や周辺の国人領主、地侍たちを従え、彼らに対して惣領としての優位性を主張しました。また、血縁関係のない家臣や国人領主に対して「一家」や「一門」などの称号を与え、自己の一族として遇することで、組織における指導的地位を確立しようとしました。

こうした形態は、結城氏、佐竹氏、宇都宮氏、小田氏などに見られ、これらの大名間の外交交渉の文書・書簡には、「当洞」や「○○洞中」などの表現が見られます（ただし、西国においても似た構造を持つ毛利氏の文書中に「洞」の語が登場しますが、これは特異な例と考えられています）。逆に、守護大名の段階において領国の一円支配をほぼ完成させていた武田氏や今川氏、新興の外来勢力である北条氏（伊勢氏）、里見氏には見られない現象でした。

伊達氏の「洞」

洞の形態を最も特徴的に示しているのが伊達氏です。伊達稙宗は、婚姻や養子縁組を通じて蘆名氏、最上氏、田村氏、白河結城氏、岩城氏、相馬氏などの洞を包括し、更に大きな洞を形成しようとしました。これは本来伊達氏特有の現象ではなく、この地域の戦国大名家の洞は、周辺部にある国人領主たちによる小規模な洞をいくつも包括していく中で、自己の洞という形で大名領国を形成していったと考えられています。稙宗が定めた分国法『塵芥集』においても、洞の概念が強く打ち出されています。

皮肉なことに、稙宗が築いた巨大な洞は、実子・晴宗との間で勃発した天文の乱によって大きく混乱し、稙宗が取り込んだ多くの洞は自立し、両派の確執を残しながら独自に戦国大名化の道を歩むことになります。この乱を「洞の乱」とも呼ぶのは、この内乱に参加した伊達氏家臣はもちろんのこと、一般には外部の戦国大名と認識されている蘆名氏や最上氏、相馬氏なども、この乱の当時においては洞の一員であったためです。

乱後も洞に残った伊達氏の一門や家臣は、曾孫の伊達政宗によって仙台藩家臣団として強い主従関係に基づく再編成を受けることになりますが、それでも仙台藩の家格の呼称には「一家」・「一門」などの洞時代の主従関係の残滓が残され続け、これに基づいた家中の上下関係が形成されました（ちなみに天文の乱終結から仙台藩成立までに新規に「一家」・「一門」以上となった家は片倉小十郎で知られる片倉氏他1家のみと言われています）。この事は近世大名としての伊達氏・仙台藩にとっては一種の後遺症となり、伊達騒動や戊辰戦争に至るまで様々な問題を引き起こすことになりました。

関連項目

大名領国制
戦国時代 (日本)

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