派生楽器

派生楽器とは

派生楽器（はせいがっき）とは、西洋音楽において、ある楽器の標準的な形態から発展して生まれた楽器の総称です。特に管楽器に多く見られる概念であり、標準型楽器とこれらの派生楽器を合わせて「同族楽器」と呼びます。同族楽器は、基本的な構造や演奏方法を共有しつつも、サイズや音域、音色などが異なり、音楽表現の多様性を広げる役割を担います。

主な派生楽器の例

金管楽器

金管楽器における派生楽器は、それぞれの標準型楽器に対して、より高い音や低い音を出すために開発されました。

トランペットの派生楽器:
ピッコロトランペット（より高く華やかな音色）
アルトトランペット（中音域を担う）
バストランペット（トランペット属で最も低い音域）
トロンボーンの派生楽器:
ソプラノトロンボーン（ヴァルヴ式が主流）
アルトトロンボーン（高音域やデリケートな表現に）
バストロンボーン（テナーより低い音域を補強）
コントラバストロンボーン（トロンボーン属で最も低い音域）

木管楽器

木管楽器にも様々な派生楽器が存在し、オーケストラのサウンドに深みや色彩を加えます。

フルートの派生楽器:
ピッコロ（フルートより1オクターヴ高い音域）
アルトフルート（より太く柔らかな低音域）
バスフルート（フルート属で最も低い音域）
オーボエの派生楽器:
コーラングレ（イングリッシュホルンとも呼ばれ、オーボエより完全5度低い）
オーボエダモーレ（オーボエより短3度低い、優しい音色）
バリトンオーボエ（ファゴットに近い音域を持つ希少な楽器）
ヘッケルフォーン（バリトンオーボエよりさらに低い、独特の音色）
クラリネットの派生楽器:
小クラリネット（E♭クラリネットなど、より高い音域）
アルトクラリネット（中音域を補強）
バスクラリネット（クラリネット属で最も低い音域）
バセットホルン（アルトクラリネットと同程度の音域を持つが、音がより豊か）
ファゴットの派生楽器:
* コントラファゴット（ファゴットより1オクターヴ低い、オーケストラの最低音域を支える）

派生楽器の特徴とオーケストラでの扱い

特に木管楽器の派生楽器には、いくつかの共通する特徴が見られます。

まず、楽器のサイズと得意な音域の関係です。標準型楽器より短い楽器は高音域を、長い楽器は低音域を得意とします。これにより、同族楽器全体として幅広い音域をカバーできるようになります。

次に、演奏性についてです。多くの場合、標準型楽器の奏者であれば、多少の練習をすれば派生楽器を演奏することが可能です。しかし、標準型楽器に比べると演奏がより難しく、指回しなどの運動性に劣る傾向があり、得意とする音域も標準型楽器ほど広くないことが一般的です。

また、多くの派生楽器は「移調楽器」として扱われます。これは、楽譜上の運指と実際に出る音の高さが異なる楽器のことで、標準型楽器の奏者が同じ運指で演奏できるよう、楽譜が移調して書かれています。

オーケストラにおける派生楽器の扱いは、一般的に標準型楽器とは異なります。通常、オーケストラのパート譜で派生楽器に「定席」はありません。多くの場合、同族楽器のセクション内で、首席奏者以外の奏者が持ち替えて演奏します。曲中で特定の派生楽器が登場する際に、標準型楽器から持ち替えることが一般的です。重要なソロパートがある場合など、首席奏者が持ち替えを担当することもあります。ただし、大きな楽団などでは、一部の派生楽器（例えばコントラファゴットなど）について、専門の奏者を置く場合もあります。

金管楽器の派生楽器も、基本的な扱いは木管楽器と似ています。しかし、いくつかの例外も存在します。例えば、バストロンボーンはトロンボーンセクションの第3奏者が常時担当することが多いです。アルトトロンボーンは特定の作品で首席奏者が演奏することがあり、バストランペットはトランペット奏者ではなく、トロンボーン奏者が担当することがあります。これらの例外を除けば、金管楽器の派生楽器もまた、必要に応じて持ち替えられたり、特定の奏者が担当したりといった形でオーケストラの中で活用されています。

このように、派生楽器は標準型楽器の音域や音色を補い、楽曲に新たな表現の可能性をもたらす重要な存在です。

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