流音

流音とは

流音（りゅうおん）は、音声学において、子音の中でも特に「l」や「r」で表される音を指す伝統的な用語です。国際音声記号における正式な術語ではありませんが、音声学の分野では広く使用されています。流音は、その調音方法や音響的な特徴から、いくつかの種類に分類されます。

流音の種類

流音は、主に以下の3つのカテゴリーに分類されます。

1. 側面音：舌の中央を閉鎖し、舌の側面から空気を出す音です。代表的なものに、歯茎側面接近音 [l] があります。
2. ふるえ音：舌先を振動させて出す音です。歯茎ふるえ音 [r] がこれに該当します。
3. はじき音：舌先を一瞬だけ歯茎に当てて離すことで出す音です。歯茎はじき音 [ɾ] が代表的です。

これらの音は、多くの場合、持続音として発音されます。また、広義には鼻音を含めることもあります。

流音の調音方法

流音は、気流の妨害度と通路によって分類されます。気流の妨害度では、阻害音（破裂音、破擦音、摩擦音）よりも妨害が少ない音です。気流の通路では、中線音（舌の中央を通る音）と側面音（舌の側面を通る音）に分かれます。また、口蓋帆の状態によって口音と鼻音に分類されます。流音は、肺臓気流（吸気音、呼気音）と非肺臓気流（放出音、入破音、吸着音）といった気流機構にも分類できます。

日本語と流音

日本語には、流音音素として「ら行」のみが存在します。そのため、日本語話者にとって、異なる種類の流音を聞き分けることは難しい場合があります。例えば、英語の「l」と「r」は、日本語話者にはどちらも「ら行」の音に聞こえることがあります。

流音の多様性

世界には、様々な種類の流音を持つ言語が存在します。ユーラシア大陸では、ほとんどの言語が2種類以上の流音を持ち、特に印欧語族では「l」と「r」が区別されます。しかし、日本語や朝鮮語のように、流音の区別がない言語も存在します。これらの言語は、主に太平洋沿岸からアメリカ大陸に分布しています。また、言語によっては、発音の都合上、特定の流音が別の流音に変化することがあります（例：ポルトガル語の一部の「l」が「r」に変化）。

流音の音韻論的特徴

音韻学では、流音は「半舌音」と呼ばれることがあります。また、ヤコブソン、ファント、ハレは、流音を [+vocalic +consonantal] という弁別素性で特徴づけています。これは、母音と子音の中間的な性質を持つことを示しています。

流音と歴史

歴史的には、古代ギリシャの文法学者ディオニュシオス・トラクスが、破裂音と摩擦音以外の子音である「λ μ ν ρ」を「ὑγρός」（ヒュグロス、湿った）と呼びました。この用語は、古典ギリシャ語やラテン語の文法書で現在でも使用されています。

流音性母音

サンスクリット語では、「そり舌接近音」（ऋ ṛ /ɻ/）、「そり舌側面接近音」（ऌ ḷ /ɭ/）などを母音として扱います。これらの音は現代ヒンディー語では失われており、歯茎はじき音 /ɾ/ と発音されます。

国際音声記号での流音

国際音声記号では、流音は以下のように表されます。

L系

側面接近音
[l] - 歯茎側面接近音
[ɭ] - そり舌側面接近音
[ʎ] - 硬口蓋側面接近音
[ʟ] - 軟口蓋側面接近音
[ɫ] - 軟口蓋歯茎側面接近音
側面摩擦音
[ɬ] - 無声歯茎側面摩擦音
[ɮ] - 有声歯茎側面摩擦音

R系

はじき音
[ɾ] - 歯茎はじき音
[ɽ] - そり舌はじき音
[ɺ] - 歯茎側面はじき音
ふるえ音
[r] - 歯茎ふるえ音
[ʀ] - 口蓋垂ふるえ音
接近音
[ɹ] - 歯茎接近音
[ɻ] - そり舌接近音
摩擦音
[ʁ] - 有声口蓋垂摩擦音

まとめ

流音は、言語における多様性と音韻構造を理解する上で重要な概念です。この記事では、流音の定義、種類、発音方法、そして言語における役割について詳しく解説しました。流音の理解は、異なる言語の発音をより深く理解し、言語の多様性を楽しむための鍵となります。

参考資料

流音について－RとLの言語学－
流音のタイプとその地理的分布－日本語ラ行子音の人類言語史的背景－

関連項目

日本語話者による英語の /r/ と /l/ の知覚
* 英語の /r/ の発音

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