浅利鶴雄

浅利 鶴雄（あさり つるお）は、1899年10月29日に東京府で生まれ、1980年4月15日にその生涯を終えた、日本の演劇界において多大な足跡を残した人物です。演劇プロデューサーとしてだけでなく、俳優としても活動しました。

そのキャリアは、明治中学を経て慶應義塾大学部理財科（現在の経済学部）を1922年（大正11年）に卒業したことから始まります。大学卒業後、日本の近代演劇史における画期的な出来事に関わります。1924年（大正13年）、小山内薫、友田恭助、和田精、汐見洋、土方与志といった演劇人たちと共に、日本初の新劇専門劇場である築地小劇場の創立メンバーの一員として名を連ねました。これは、日本の演劇が歌舞伎などの旧来の形式から脱却し、近代的な新劇へと歩みを進める上で非常に重要な拠点となりました。

築地小劇場での活動を経て、後に松竹へと籍を移します。松竹では、単なる裏方としてだけでなく、俳優としてサイレント映画に「三田英児」という芸名で出演するなど、表舞台でも活動しました。しかし、その主な功績はプロデューサーや経営の一端を担ったことにあります。社長秘書を務めた時期もあり、特に、二代目市川左團次が敢行した歌舞伎界初のソ連公演には、秘書として同行し、歴史的な文化交流の実現を支えました。

さらに、戦前・戦後を通じて一大娯楽拠点として栄えた浅草国際劇場の初代支配人にも就任しています。ここで浅利は、こけら落としの際に世界の喜劇王チャールズ・チャップリンを日本に招聘するという快挙を成し遂げ、劇場だけでなく日本の大衆文化に大きな話題を提供しました。また、松竹歌劇団（SKD）の発展にも深く関わり、多くのスターを育て、その隆盛に貢献した一人としても知られています。

浅利鶴雄はまた、演劇界や経済界に繋がる著名な親族を持つことでも知られています。母の浅利たけは芸妓として知られ、政治家の大岡育造との間に大岡龍男（俳人、出版関係者）を、また実業家の小林八郎との間にも子をもうけており、母方の孫には女優の七尾伶子がいます。妻のフサエは東京の田辺元三郎（後に旧・東京田辺製薬元会長）の姉にあたります。そして何よりも特筆すべきは、劇団四季を創設し、長年にわたり日本のミュージカル界を牽引した浅利慶太が彼の息子であることです。二代目市川左團次も母の妹の夫として親戚関係にありました。

このように、浅利鶴雄は築地小劇場での新劇運動の黎明期から、松竹での多様なプロデュース活動、そして浅草国際劇場という大衆文化の中心地での辣腕に至るまで、日本の演劇および大衆娯楽の発展において、多岐にわたる重要な役割を果たしました。彼の活動は、息子である浅利慶太へと受け継がれ、日本の現代演劇にも影響を与え続けています。

もう一度検索