海軍設営隊

海軍設営隊：太平洋戦争を支えた建設部隊

海軍設営隊は、太平洋戦争中に日本海軍に所属し、基地施設の建設や陣地構築を主な任務とした部隊です。200隊以上が編成され、南方の最前線を含む各地で飛行場などの建設に携わりました。初期には設営班と呼ばれていましたが、戦況の進展と共に軍人による編成へと変化していきました。

設立の背景と変遷

開戦前、日本海軍は基地建設部門として海軍建築局を設置し、各軍港に建築部を配置していました。しかし、太平洋戦争の勃発が現実味を帯びるにつれて、前線で連合艦隊などの作戦部隊の指揮下で基地建設を行う部隊の必要性が高まりました。1941年8月、建築局は海軍施設本部に発展的に解消され、特設海軍建築部（後に特設海軍施設部へ改称）が設けられました。

これにより、施設本部が全体計画を策定し、各鎮守府の建築部（後に施設部へ改称）で設営隊が編成され、作戦部隊の指揮下に入るという体制が確立しました。また、設営専門の技術科士官制度が創設され、海軍工作学校で技術士官の養成も始まりました。

最初の実働部隊として、1941年10月頃に特設設営班が編成されました。当初は文官である海軍技師・技手を幹部とし、作業員も徴用工員のみで構成される、純粋な軍属部隊でした。これらの部隊は、開戦後、占領地の飛行場整備に投入されました。その後、港湾設備の整備を任務とする臨時設営班も増設されましたが、1942年半ばには各占領地の特設建築部に編入・解隊されました。

1942年4月頃からは、軍人が指揮する特設設営隊が新たに編成されました。工作学校卒の技術士官に加え、文官技師からの技術士官採用も進められましたが、陸海軍の兵力量問題から、技術下士官・兵の整備は遅れ、設営隊の主力は依然として軍属でした。ミッドウェー島攻略作戦などにも参加し、占領後の飛行場整備が計画されましたが、ガダルカナル島の戦い以降は連合軍の反攻が本格化。飛行場建設に加え、工兵に近い防御陣地構築も任務となり、設営隊は次々と増設され、南方各地へ送られました。

1944年5月には、技術下士官・兵の制度が整備され、従来の軍属作業員も軍人による編成へと移行が進みました。技術下士官兵教育のため、各鎮守府の施設部に教導設営班が置かれましたが、人員不足から軍属主体の部隊も依然として存在しました。その後、150隊以上が編成され、フィリピンを中心とした南方や、台湾、沖縄、日本本土各地へ配備されました。神風特攻隊用飛行場建設や工場の地下疎開も担当し、終戦まで活動を続けました。

太平洋戦争全期間で、223隊（番号設営隊215隊、地名呼称設営隊8隊）の設営隊が編成されました。そのうち74隊が南方へ派遣され、残りの149隊は内地で飛行場建設（60隊）やその他の建築任務（89隊）に従事しました。

正規の設営隊以外にも、各施設部で編成された施設関係部隊が多数存在しましたが、軍属部隊であることや臨時の編成が多かったため、史料が少なく、組織や活動地域が不明な点が多いのが現状です。

編制

軍人編成となった後の特設設営隊には、甲編制、乙編制、丙編制、丁編制が存在しました。甲編制が最も本格的な編成で、部隊の任務（飛行場建設か築城かなど）によって詳細が異なりました。

甲編制の例:
設営隊本部：隊長は佐官。乙編制では尉官、技術大尉が隊長を務めることもありました。
第1中隊：建設機械担当。ブルドーザー、牽引式スクレイパーなど十数両、トラック約20両。
第2中隊：飛行場・運搬路担当。
第3中隊：居住施設・耐弾施設・桟橋担当。
第4中隊：トンネルなど担当。
その他：運輸隊（大発動艇9隻）、医務隊、主計隊、通信隊
人員：1054名。甲編制では軍属1000名以内を置くことができました。
武装：小銃829丁、軽機関銃24丁、重擲弾筒48門（理論上の装備数で、実際には大幅に不足していました）

実戦と評価

海軍設営隊は、アメリカ海軍のシービー（建設部隊）と比較されることが多く、能力不足を指摘されることがありました。特に、日本の土木作業の機械化が遅れていたことが、その要因の一つでした。鹵獲したブルドーザーの配備や国産化も試みられましたが、他の車両製造との競合や性能の低さから、十分な効果を上げることはできませんでした。さらに、海上輸送力の不足から、機械類の携行が制限されることもありました。また、機械があっても、熟練した運転手が不足しており、効率的な運用が難しかったという課題も抱えていました。

しかし、1943年頃には一定の機械化が達成され、1943年末に編成された甲編制部隊では、ブルドーザーやスクレイパー、ロードローラーなどの建設重機を装備していました。千葉県内では、鉄板や鉄網を用いた滑走路の急速設営の研究も行われ、その成果がニューギニアのワクデ島での飛行場建設（上陸後25日間）などに活かされました。また、ハルマヘラ島では、着工から約20日間で戦闘機の発着に成功した記録も残っています。

設営隊は戦闘部隊ではなかったため、自衛用の小火器しか持っていませんでしたが、ガダルカナル島など各地で地上戦に投入され、多大な犠牲を出しました。「陸戦隊」「海軍部隊」として戦史に登場する部隊の中には、設営隊が戦闘任務を担ったものも少なくありませんでした。発破作業用の爆薬や竹槍などを武器に戦い、ビアク島の戦いや硫黄島の戦いのように、全滅した例も存在します。

徴用工員

海軍設営隊の特徴の一つとして、徴用工員と呼ばれる軍属の多さが挙げられます。特に朝鮮や台湾出身の工員の割合が高く、日本本土の各鎮守府の施設部で教育を受けた後、設営隊として組織され出動しました。給与は軍人に比べて高給でしたが、生活待遇は良好とは言えず、最前線では地上戦に投入され、多くの犠牲者を出しました。玉砕戦となったケースでは、軍人に比べて生存者が多かったという記録も残っています。また、必要に応じて現地労務者を雇用することも認められていました。

まとめ

海軍設営隊は、太平洋戦争において、インフラ整備という重要な役割を果たしました。多くの困難や犠牲を強いられながらも、前線での作戦を支えた部隊の一つとして、その活動は忘れてはならないでしょう。

参考文献

海軍歴史保存会 『日本海軍史 第6巻』 第一法規出版、1995年。
佐用泰司 『海軍設営隊の太平洋戦争』 光人社、2001年 ISBN 4-7698-2315-0。

関連項目

海軍陸戦隊
海軍工作学校
シービー - アメリカ海軍の同種部隊。
飛行場設定隊 - 日本陸軍の飛行場建設部隊。

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